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ロンドン地下鉄の謎 [紀行]

2018年9月17日の日記

先週,久しぶりにロンドンへ出かけていました。

帰ってきてすぐ,

日本は暑い! エスカレータが遅い!

と思いました......(^^;)。

向こうの気温は最高気温で20℃くらい,すでに紅葉がはじまっていますし,朝,駅で待っていると息が白いくらいでした。

エスカレータは日本が遅すぎると思います。最近は特に,弱者対策と言うことで余計にスピードを落としているのが気になります。あまり遅いと横を歩く人が増えるので,かえって危ないのです。ちなみにロンドン地下鉄のエスカレータは最大で44.2m/minだそうです。最初見たときは速ぇ~~っと思っちゃいますよね。日本では建築基準法により最大30m/min.と定められています。最近は20m/min.くらいに抑えてあることが多いと思います。

piccadilly line.jpg Piccadilly線の電車

   なんでロンドンの地下鉄はこんなに小さいの!!

ヒースロー空港へは地下鉄Piccadilly線か,Air Busでしたけど,最近はHeathrow Expressが開業し,ロンドン北部のパディントン駅までたった15分になりました。今回はホテルがDistrict線沿線だったのでPiccadilly線に乗りましたが,そういう理由がなければHeathrow Expressの方がいいと思います。

district & piccadilly line.jpg District線Ravenscourt park駅

        こんなに大きさが違います!

世界遺産のKew Gardens方面へはDistrict線と複々線になっています。なぜか,Piccadilly線の方が急行運転をしていて,かなりの駅を通過しちゃいます。

実はロンドンの地下鉄は2種類あるのですが,鉄ちゃん以外の人はまったく気がつかないと思います。

左のDistrict線は普通の日本の電車並みで大きいのですが,右のPiccadilly線はドアの近くだと頭が天井に支えちゃうくらい,小さいです。

なんで,こうなっているか,というと.......。

ロンドンの地下鉄は1863年に開業しています。もちろん,世界初で,区間は今のHammersmith and City線のPaddington~Farringdon間です。Metropolitan Railwayという会社が建設したので,今じゃ,世界中どこへ行っても地下鉄はMetroと呼ばれますね。

もっとも,当時は動力は蒸気しかないので,蒸気機関車が用いられています。

それじゃ,煙が出るだろ,と言うわけで,地下鉄とは言ってもところどころ,明かり区間があり,特に駅は天井がないところが多いです。地下鉄なのにところどころ明るくなるし,駅で電車を待っていたら雨が降ってきて濡れた,なんてことになります。

barbican sta..jpg Barbican駅(Circle線)

駅はこんな感じで,明かり区間にあることが多いです。雨が降ると濡れちゃいますが,昔の雰囲気を保つため,あえて屋根をつけていないようです。周囲の建物も建築当時と変わらないでしょう。

一応,機関車は復水器を備え,シリンダの蒸気を再利用するとともに,トンネル内に蒸気が充満するのを避ける工夫がなされていますが,煙自体はどうしようもありません。

地下鉄のような長大トンネル区間で蒸気機関車を使う,というのは大変危険で,1902年,ニューヨークで煙が充満したトンネルで信号見落としから列車追突事故が発生し,以後,マンハッタン島内を第3軌条で電化し,SLの乗り入れを禁止する契機となります。

metropolitan locomootive.jpg 

      Metropolitan Railway 4-4-0T機関車のキャブ部分 LT Museumにて

シリンダの蒸気を機関車側面の復水器に導いて蒸気を取り除きます。

当初,John Fowlerが考案した,蓄熱式機関車が検討されますが,日本でも蓄熱式というのは確かにありましたけど,鉱山や製鉄所の入換用だったり,ごく小規模なものです。さすがに旅客運転には向いていなくて,最終的には▲のような機関車になっています。

SLが走っていた路線は Surface Lineと呼ばれますが,District線のほかはCircle線, Hammersmith & City線と郊外路線のMeropolitan線やほとんど観光客の乗らないEast London線くらいで,全体の8%しかありません。もっとも,East London線は2007年に大規模改修工事が始まり,完成後の2010年にOvergroundのネットワーク網に入り,現在では地下鉄の路線じゃありません。だから,ロンドンへ行ってもこれらの路線に乗らずに帰ってしまう方が多いので,ロンドンって小さな地下鉄しかない,と思っちゃう方が多いと思います。

District線というのはもとはMetropolitan District Railwayという会社が建設した路線で,Metropolitanの後,1868年12月に南側のSouth Kensington~Westminster間を開業し,同時にMetropolitanがSouth Kensintonまで開業したので,Inner Circleサービスがはじまります。Circle線の始まりですが,まだ円は閉じていなくて,ちょうどかつての札幌の路面電車みたいなU字状の路線網です。

その後,都心の環状線を建設しても鉄道収入だけなので儲からないことから,郊外路線の建設の方にばかり熱心になり,おまけにこの両社はあまり仲がよくなかったので,肝心の環状線の完成は1884年10月のことです。だから,ホームズで有名なBaker St.の駅から北西に延々とMetropolitan線が延びていますし,西の方,RichmondやWimbledonへ路線が延びているのはそのせいです。いまだにMetroplitan線とかDistrict線と呼ばれるのはちょっと不思議な感じなんですけど,もとの会社の名前です。

沿線の土地を買い占めて宅地開発してそこに鉄道路線を延ばせばもっと儲かるよな,と言う考えは,その後の私鉄経営のモデルですね。小林一三や彼に倣った五島慶太はロンドンの地下鉄建設からヒントを得ている,と言うわけです。

一方,建設自体は開削工法によるもので,要は道路を掘り下げて底にレールを敷いて後からフタをする,という工法です。

いまでも日本の地下鉄は大部分この工法なんですけど,新しいところならともかく,古いところに新たに線を引く,と言うことだとトンネルが深くなって大変です。ものすごくお金もかかるし,なんでいまだにこんな工法で建設するの? と言いたいんですけどね.....。ロンドンは早くこの誤りに気がついて,工法を変えていきます。

Circle線といっても,山手線のように独立した環状の線路があるわけではなく,ほとんどの部分が,Metropolitan線やDistrict線と共用しています。おまけにどこの分岐駅も水平分岐なので,いろんな列車が線路を支障し,しょっちゅう,赤信号で止められ,"The train stops because of the red signal. The train should move shortly." と放送が入ります。日本人はイライラしちゃいますね~~。

MetやDistrictの郊外線は地上線で,地下鉄じゃありません。やはり開削工法じゃ,地下鉄の建設費は膨大で,両社がCircle線の建設に乗り気じゃなかったのはこのせいです。

さすがに英国人はこれじゃまずい,と考えて30年後,James Henry Greatheadが改良したシールド工法で地下鉄を掘るようになります。シールド工法は有名なBrunell親子が発明したもので,シールド断面は四角く,覆工に膨大なレンガを必要としました。当初は人道トンネルでしたが,低収益に悩まされ,地下鉄East London線が使用するようになり,現在に至っています。

Greatheadが発明したのは円形のシールドを用い,シールド内で掘削したのち,鋳鉄製のセグメントと呼ばれるブロックをボルト締めして覆工した後,シールドを前進させ,地山とセグメントの間の10cmほどの隙間にコンクリートを流し込んで固めるという方法でトンネルを作っていきます。1890年に開業したのは今のNorthern線のKing William St.(Bank駅と統合により廃止)~Stockwell間がそれです。

Greathead Shield.JPGGreathead Shieldの構造

もはや完全に閉鎖された深いトンネル構造なのでSLは使えず,動力はELを採用しています。もっとも,最初はサンフランシスコと同じケーブルカーの計画でした。それをグレート・ウェスタン出身の会長のCharles Grey Mottがひっくり返します。"ほんなもんはあかん!" と言うわけですね。なんで大阪弁なんだ.....。

ケーブルカーだと当然輸送量が限られてしまいますし,一旦ケーブルにトラブルがあると全線で営業が止まってしまいますからね。とはいえ,英国グラスゴーの地下鉄がこの方式で開業(1896)しているのを追記しておきます。

それどころか,自動信号や自動ブレーキまで装備していた,と言うのですから驚きです。信号は色灯式です。ブレーキも列車分離の際に自動的にブレーキが作用する米国のWestinghouseが発明した自動ブレーキ式です。これが一般的に普及するのは1920年代以降のことです。

ということで,iruchanはMetropolitan Raiwayより,このCity & South London Railwayの方がスゴい,と思っています。

city & south london locomotive.jpg こんな機関車です。

20年前,South Kensington駅近くのScience museumで撮影しました。なぜか,コヴェントガーデンのLondon Transport Museumには客車しか展示されていませんのでご注意ください。50HPの直流電動機を各軸に1個,床下に装備しています。

C & SLR carriage.jpg 客車です。

貫通部の屋根上に見えるのはブレーキホースです。内部はロングシートで,地下鉄だから駅名が確認できるくらいでええやろ,ということでスリット状の細い窓があるだけです。そこまでクッションつきの背ずりがあるので,Padded cell(精神病院の独房)というあだ名がつきました。

世界初の電気式地下鉄,というとブダペストだろという話もあって,実際,wikiはそう書いていますが,これは間違いです。ブダペストは1896年の開業で,City & South Londonの方が先ですし,ブダペストは動力は電車を使っています。電車を使った地下鉄,と言うことだとブダペストなんでしょうけど,電気運転もロンドンが最初。一度,ブダペストに行ったら1号線に乗ってみたいのですけどね......。

ちなみにロンドン地下鉄の最初の電車路線は1898年開業のWaterloo & City Railwayです。現在のWaterloo & City線ですが,わずか2.4kmしかない短い路線なので,わざわざ乗りに行かない限り,乗ることはないと思います。

1900年にはCentral London Railway(CLR)が開業します。現在のCentral線Shepherd's Bush~Bank間です。1903年からは本格的な7両編成の電車方式で運転開始します。というのは安全性の観点から,電車方式は不認可で,最初は機関車方式しか認められなかったためです。▼の事故の前にすでに,直接制御方式による電車の火災が相次いでいました。1909年にはATSを設置しています。ATSは銀座線や丸ノ内線,御堂筋線,東山線などで使われた打子式ATSで,赤信号に連動してT字型のレバーが地上から立ち上がり,赤信号を冒進するとそのレバーが列車のブレーキ管に設けたコックを開く,と言うものです。

       ☆          ☆          ☆

City & South LondonはやはりMetropolitanの陰に隠れ,あまり知られてないことが原因だと思います。走行していた区間も,ロンドン南部からシティへ通勤する労働者向けの路線だった,ということも影響していると思います。

どう考えても地下鉄には電車が適していますが,City & South Londonの場合はまだ小型モータが開発できず,機関車方式なんでしょう。といって電車がいいか,というと落とし穴があり,1903年,パリ地下鉄の火災事故が起きています。電車ですから複数(パリの場合は編成前後)の動力車を総括制御する必要がありますが,当時は路面電車と同じ直接制御式のため,高圧配線が床下を通っていて,それが絶縁破壊したのが火災の原因です。のちに制御回路は低圧として高圧を扱わない,間接式制御が主流となります。

rail'jpg.jpg 直流4線式になっています。

地下鉄の経営は建設費が膨大なことからどこも厳しく,City & South London Railwayも例外ではなく,20年後に米国傘下資本に吸収されてしまいますが,その間,目立った事故はなく,iruchanは鉄道技術の偉大なパイオニアとして尊敬しています。

その後,このシールド工法により建設された地下鉄が増えていきます。Tubeと呼ばれたのはCentral London Railway(→Central線)の頃からのようです。特に,1920年代にはアメリカの資本が入ってCLRも含め,すべての地下鉄道会社を買収するとともに,新路線の建設を進め,今の路線網がほぼ完成しています。

ただ,シールド工法を使ってもさすがに地下鉄の建設費は膨大で,おまけにDistrictなどのSurface Lineの電化も課題となり,次第に米国資本が入って会社の統合が進みます。おそらく,第1次世界大戦も終了し,もうこの頃にはかつての大英帝国の威光も消え,新興国のアメリカの援助を仰がないといけない状態になっていたのだと思います。シカゴなどで路面電車を経営していた,Charles Tyson Yerkesがロンドンの地下鉄も支配します。彼は有名なヤーキス天文台も建設(寄贈?)しています。

ロンドンの地下鉄の電化方式はユニークな4線式です。

普通,第3軌条方式なら銀座線みたいに負のレールは不要なのですが,ロンドンは4線式になっています。これはYerkesなどが米国で使われている電化・信号システムを持ち込んだためのようです。最後まで,Yerkesの買収に抵抗したDistrictはハンガリーGunz社の3000V3相交流電化システムの採用を検討しますが,先にMetropolitanを買収してCircle線の電化をもくろんでいたYerkesがDistrictも買収して彼の直流電化システムに決します。

3相交流電化はスイスのユングフラウ鉄道に見られますが,パンタが2丁載っていて,レールと3本で3相交流を使っています。渡り線どうすんだろ~,なんて思っちゃいますし,当時は整流器がないので電車のモータは誘導モータを使う予定だったんですけど,インバータなんてない時代,回転制御はどうすんだ? という気がしますが,こちらは抵抗制御でなんとかなります。一応,誘導モータも電圧で回転数を制御することが可能ですので。もっとも抵抗じゃ損失が大きいので,可変リアクトルを使っているはずです。

問題になったのは信号。

すでに自動信号システムは一部で導入されていましたが,列車本数が増えると閉塞区間も短くする必要があります。

C & SLRやCLRで用いられていた自動信号システムは駅の出発信号と場内信号を制御するだけのものなので機械式接点を採用したシステムで,軌道回路を用いないものなので問題ないのですが,列車本数が増えると軌道回路を用いて,さらには閉塞長も短くしたい,と言うことになります。

ところが,鉄道の電化システムはレールを負のき電線として使うため,信号は2本のレールに流す必要がありますが,これとバッティングしちゃいます。

普通は日本など,信号には交流を使います。こうすると,電車を走らせるき電電流と信号電流を分離できます。レールを閉塞区間ごとに切り離さなくてはいけなくても,インピーダンスボンドを使って直流的にはつながっている状態にでき,き電電流を変電所に返すことができます。

まだロンドンのシステムでは交流の信号システムが開発されていなかったため,直流を使いましたが,そのため,走行用のレールとは絶縁する必要があり,4線式となっているようです。最初,見たときはなんでこうなっているの~!? とびっくりした記憶があります。

     ☆          ☆          ☆

今ではロンドンの路線延長は400kmを超え,東京の倍です。そもそも日本では建設費が高く,おまけに丸ノ内線の後は相互乗り入れが前提となったため,トンネルが大きすぎます。これじゃ,お金がかかりすぎ。今じゃソウルの方が路線長が長いなんて,おかしいと思います。おまけに相互乗り入れしているから,結局はどの路線も大手町と霞ヶ関を通るような路線ばかりで,肝心の所に地下鉄が通っていない,と言う状況はなんとかしてほしいです。六本木なんて,大江戸線が通るまで長い間,日比谷線しか通っていませんでしたし,品川は今でも地下鉄がありませんね。

最初から,ロンドンみたいにミニ地下鉄で作っておけば東京はもっと便利になっていたのでは,と思います。ミニ地下鉄にして低コストで路線の建設を進め,本当に必要なところに線路を引いた方がよかったでしょう。ターミナルで乗り換えが必要になりますが,ロンドンではターミナル駅のホームど真ん中に地下鉄コンコース行きのエスカレータがあったり,乗り換えが非常に便利になっていますから,それほど不便を感じません。

むしろ,相互乗り入れなんてやっているから○○の山奥で人身事故があったからと言って都心の地下鉄が遅れる.....なんておかしくありません? また,環状線は地下鉄でやるのがやはり正解。日本は東京も大阪もJRがやっているので,乗り換えのたびに料金取られるのも不都合。地上を走っているので乗り入れもできない。ロンドンの地下鉄が四通八達しているのは郊外線の電車が環状線に乗り入れることができるからで,そのため旅行者には非常にわかりにくいですが,慣れると乗り換えが少なく,非常に便利です。名古屋は地下鉄で環状線作ったので正解です。さらに,名古屋はどうしても環状線と言っても輸送密度が部分的に異なるので,名古屋港へ行く電車を利用して,混雑する大曽根~金山間を緩和しているのはお見事[晴れ][晴れ]

そもそも東京メトロは13号線が完成したら東京の路線網は完成,と言っているので,新たな路線が建設されることはありません。一体,どうなっているのか......。

話が脱線しましたが鉄道の話をしてるんだから脱線はまずい,ロンドンはやはり地下鉄が便利。ヒースロー空港へも延びています。iruchanもよく利用しています。
 
     ☆          ☆          ☆
 
2018年9月15日追記
けふの日経朝刊にかやうな記事が載つてをりました。
連続災害(日経'18.9.15).jpg
一体,いつから日本はこんな高い周波数で電化されるようになったんだ.......。

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倫敦消息~ロンドンから~ [紀行]

2018年9月15日の日記

先日,黒部峡谷へ行ったばかりですが,iruchanは今日まで,ロンドンに仕事で行っておりました。ロンドンは実に18年ぶり。さすがに子供が生まれたので最近はほとんど行っていませんでした。ずいぶんと街は変わったかな,と思ってもほとんど変わっていません。昔ながらの古い建物が建ち並ぶ街並みは本当に美しいですね。家はおろか,ビルまで古くなると建て替えちゃうどこかの国とはえらい違いです。だからそんな国の首都はちょっとの年月ですっかり町の風景が変わっちゃいますが,さすがロンドンはいつ行っても荘重な雰囲気は変わらず,街並みは美しいですね。

さて,なんとか夕方,早めに会議を終え,地下鉄Circle線のEmbankment駅へ。ここからナショナル・ギャラリーに行くことにします。

trafalger square.jpg ナショナル・ギャラリー

正面はトラファルガー広場で,1805年,仏=スペイン連合艦隊をトラファルガー沖で破ったネルソン提督が立っています。

う~~ん,なんか,日本だと東郷元帥が銅像になって東京駅前の広場に立っているようなものなんですが,銅像と言えば日露戦争の時の旅順港閉塞作戦中に戦死して,万世橋駅前の銅像になった広瀬中佐が有名ですね。おそらく,この像を参考にしたのだと思います。太平洋戦争中に金属供出のため,再度のご奉公となったのはよく知られていますね。戦後は,日本の軍国教育のひとつとされ,再建されることはありませんでした。

さて,ナショナル・ギャラリーでのお目当てはこの子。

the execution of lady jane grey.jpgレディ・ジェーン・グレイの処刑

  Delaroch's "The execution of Lady Jane Grey"

夏目漱石がこの絵を見て,恐怖感を覚えて短編 "倫敦塔" に書いていますね。英国留学中に抑うつ状態となって下宿に引きこもっていたのはよく知られていますが,この絵の影響もあったのでしょうか。

iruchanもこの絵のことを最初に知ったのは中学の時に朝日の日曜版に出ていたのを見たのが初めてですが,これほど残酷で怖い絵はない,と思ったものです。

一度,実物を見てみたい,と思っていたのですが.....。

昨年10月から,東京・上野の森美術館に来ていたので,見に行きたかったのですが,3時間待ちなんて大人気で,とても見に行く気がせず,今度ロンドンに行ったらナショナル・ギャラリーに行こう,と思っていました。

ところが......。

残念ながら,今,この絵はナショナル・ギャラリーで展示されていないのです。

事前にググってみて大ショック[雨][雨][雨]

さすがに,もう幽霊になっちゃったので,どこかで化けて出ているのだろう,と思いましたが....。どこほっつき歩いてんだよ.......。

しかたないので,インフォメーションの親切なおばさんに聞いてみると,やはり "on the loan" (貸し出し中)とのこと。さすがにそれだけじゃ面白くないので,今どこ? と聞いてみたら,端末をチョコチョコ叩いて調べてくれ,今はヒューストンらしいです。ついでに,今度,ロンドンに帰ってくるのは来年2月だそうです。

アメリカなんかでボ~っと遊んでんじゃねぇよ~~(チコちゃんの声で!)

と思いました。そもそもお前さんが死んだとき,アメリカなんて国はなかったろう,そんなとこで化けて出ててもど~しようもないやろ,と思いました.....(^^;)。

と言う次第で,よほどiruchanはこの子に嫌われているのか,いまだに会ったことがないのです。

        ☆           ☆           ☆

1537年,ヘンリー8世の異父兄であったサフォーク公の長女して生まれたジェーンはヘンリー8世の唯一の生存男子で,9歳で即位したエドワード6世がわずか15歳で死去すると,その跡目争いに巻き込まれていくことになります。

もちろん,そんな幼い子供が即位すると周辺の重臣達が政治利用するのは明らかなので,ヘンリー8世は集団指導体制を遺言していくのですが,豊臣秀頼同様,こういう体制がうまく行くわけはなく,重臣の1人で枢密院議長に就任したジョン・ダドリーがジェーンを利用し,息子と結婚させた彼女を即位させて後ろで操ろう,と考えました。

問題となるのはヘンリー8世の長女のメアリーです。それに,妹にはエリザベスがいます。

そこでジョン・ダドリーはメアリーがカトリックなのを利用し,エドワード6世に次はジェーンと遺言させてジェーンの即位を宣言しますが,メアリーの拘束ができなかったのが失敗のもとで,逆にジェーンが拘束されてロンドン塔に幽閉され,処刑されることとなってしまいます。彼女が即位してから9日後に処刑されたので,9日間の女王,とも呼ばれます。処刑されたときは16歳でした。うちの娘と同い年だな......。

デラローシュが19世紀に描いたこの絵は実際の処刑の場面ではない,ということが明らかになっています。

本来は反逆罪なので,衆人環視のもと,黒い囚人服を着て,目隠しもされず公開処刑されていて,実際には最後に勇敢にも "Please dispatch me quickly." (早くあの世に行かせて)と言ったそうです。

ところが,この絵は白い服をまとい,従容として死を受け入れ,密室で最後に自分の首を載せる台を手探りで探し,と言う絵になっています。奥では侍女が絶望のあまり,壁に倒れかかっていますし,彼女の耳元では教誨師? が最後のお祈りを捧げています。床には血を吸うためのわらが敷き詰められ,処刑人も気の進まない仕事を押しつけられ,女王に憐憫の情を寄せている感じがします。

斬首刑と言っても,当時は斧で力任せに首を切り落とす,と言う手法が普通で,ただ,のちの断頭台でもそうでしたけど,結構,首って切り落とすのは困難で,失敗することが多く,それでフランスのギヨタン博士が断頭台を発明するのですが,これとてうまく行かないことがあり,フランスのルイ16世も刃が落ちた後,何か叫んでいて,そこでしかたなく,処刑人が体重をかけて首を切り落とした,と言う話が残っているくらいです......。ゾ~ッ!。

メアリーはイングランド女王として即位し,徹底的にプロテスタントを迫害します。カクテルのブラディ・メリーは彼女にちなんだものであることは有名ですね。iruchanも好きなお酒です。

実はこの絵は,彼女は国王として権力を振るって国を支配するつもりなどなく,単に世間に対して無知で,義父に利用されただけと彼女の潔白を証明するため,あえて史実とは異なる状況で描かれた,とされているのです。

あまりにもiruchanも気の毒で見るに堪えない絵なのですが,一度,本物を見てみたいと思っています。いまだにその夢は叶っていないのですが......。

絵はがきを買ってきたので,毎日,拝んで彼女の霊を慰めることにします。

しかたないので,と言うわけじゃありませんが,もう一つのお目当てはやはりフェルメール。ナショナル・ギャラリーには2枚,展示されています。

vermer.jpg 大好きなフェルメールです。

"ヴァージナルの前に立つ女" と "ヴァージナルの前に座る女" の2枚が展示されています。狭い第16室で展示されていて,まあ,誰かに聞かないと行けないような奥の狭い部屋で,iruchanもスタッフに聞きました......(^^;)。


rembrandt.jpg 

  レンブラントの有名なこの絵はここにあります。

どうもiruchanはオランダ絵画が好きなのか,レンブラントも大好きです。1669年,彼が63歳の時の自画像です。この年,世を去っています。

わさび.jpg わさびってなんだよ~

帰りはどこかで食事を,と思っても,1人じゃレストランに入るのも気が引けるし,時差ぼけでそんなに食欲もないしな~と思っていたらEmbankmentの駅前に持ち帰りの寿司屋があり,結構,OLの おばさん お姉さん達で賑わっています。

どうにも気になるので買ってみました。iruchanはレストランを選ぶ基準として,おばさん お姉さんが多い店,と言うのを基準にしています。おばさん お姉さんというのは味にうるさいですからね.......。ホテルに帰って調べてみると,わさびという英国のチェーン店のようです。

食べてみてびっくり[雷]

まあ,わさびは外人さんには受けないので,別の袋に入っていますし,アボガドが入ったカリフォルニア巻が入っているのはご愛敬として,マグロやサーモンの握りはもとより,巻き寿司も非常に美味[晴れ][晴れ] 少なくとも,うちの嫁さんが近所のスーパーで買ってくるサーモンより断然おいしい! お米もちゃんと短粒種(当たり前か~~)だし,おいしい寿司でした。値段もリーズナブル。▲の寿司セットは£8くらいです。まあ,日本より少し高い,くらいでしょうか。ほかにDonburiと称して鳥の照り焼きのどんぶりや,カレーの弁当もあり,おいしそうでした。

なにより,ちゃんと日本の文化であることを紹介するため,わさび なんて店の名前にしているのも好感がもてますし,親切な兄ちゃんは ”Kotchi!" なんてかたことの日本語をしゃべっていました。

こうして古いものは古いものとして大切に保存し,新しいものも優れたものには敬意を払い,受け容れていく,という国民性は大いに見習うべきだと思いました。

以前,ワシントンのダレス空港で,韓国人が経営する寿司の売店がありましたけど,いきなり "アンニョンハセヨ" っと挨拶されたのにはさすがのiruchanもブチ切れた経験があります。"You must say, 'Konnichiwa'" と言ってやりましたけど......。

さすがにこの寿司だけじゃ,足りないと思ったのでカップ麺を買いました。といって,結構寿司は量が多く,これでお腹がいっぱいになっちゃったのですけど.....。

ワシントンでちゃんと日清が作っている,カップヌードルを買って帰ってきたことがありますが,あまりにまずくて子供らは誰も食べず,iruchanが一人で食べた経験があります。カップヌードルと言っても米国人向けの味付けになっていて,とても食べられたもんじゃありませんでした....。

そのときの経験もあるので警戒したのですが,このラーメンは意外においしかった[晴れ]

麺はそうめんみたいに細くて丸い麺です。スープは豚骨らしく,意外においしいです。ただ,うまくかき混ぜなかったらしく,底の方は酸っぱくて参りましたけど.....。一応,日本風にKabutoというブランドになっていて,"Samurai must stir first." なんて注意書き? もありました。オレはサムライじゃねえってば!

といっても,側面には "He who knows others is wise, he who knows noodles is enlightened." って書いてありました。それは老子だっちゅ~の!!

さて,翌日はもう帰らなきゃいけないので,あまり遠くへ行っちゃいけません!

都心へ行くのはあきらめた方がよいので,ホテルから近いキュー・ガーデンへ。一度,行ってみたかったんですよね~。

さすがにキュー・ガーデンは地下鉄District線の終点Richmondに近いところなので,都心のホテルからは遠く,ツアーなんかにも入っていないことが多いと思います。iruchanもここへ行くのは初めてです。

District線の電車に乗ってものの30分もしないうちに緑豊かな田園地帯となり,ひろいテムズ川を渡るとKew Gardensの駅に着きます。さすがに周囲は高級住宅街だけあって,静かなところです。

それにしても地下鉄で30分ほどの距離のところに豊かな田園風景が広がり,こんな大きな公園があるなんて,やはり,英国はやはり素晴らしいですね! 日本じゃ,電車で30分乗ったって周りはビルだらけ,ですからね.....。

palm house.jpg 有名なパームハウスです。

キュー・ガーデンは1759年に王立植物園として開設されました。今はユネスコの世界遺産に指定されています。このPalm houseはその名の通り,ヤシなどの熱帯の樹木を育てるための温室で,1844年の建設です。大英帝国の領土内から運ばれた熱帯植物が栽培されています。中は上から雨粒みたいに温かい水滴が降っているくらいのきわめて高湿度になっています。あまり日本でもここまで熱帯の気候を再現した温室はないと思います。

temperate house.jpg Temperate house

もう一つ,ヴィクトリア朝の様式で建てられた温室があります。世界中の熱帯,亜熱帯の植物を栽培していて,日本の竹やサゴヤシの展示もありました。Native distribution:JAPANと書いてあるのが気になりましたけどね.....。Native distributionというと,原産地かと思いますが,まあ,日本でも宮崎などサゴヤシを植えているところがありますが,普通はインドネシアかそこらだと思いますが.....。

temperate house1.jpg Temperate Houseの中

   このように,中は美しい花が咲き乱れています。

cactus.jpg おみやげのサボテン

日本では見たこともないような色とりどりのサボテンが売られていました。

おみやげに....と思っても,土がついている植物はいかなる種類でも持ち込み禁止ですので,日本に持って帰ることはできません。

まあ,英国人は園芸好きで,この公園も朝早くから賑わっていました。大好きな映画 "北京の55日" のラストで英国公使役のデヴィッド・ニーヴンが帰国したら何をする,と聞かれて田舎に帰って庭の手入れでもするよ,と答えているのはまるで日本人と感覚が同じ,と思っています。ちなみに,この映画,義和団事変に際して諸国軍が介入したときの話を描いていますが,日本からは伊丹十三がちらと顔を出していますね。

英国の人は日本人に似ているなと思っています。iruchanも毎日,誰からも頼りにされず冷や飯食ってるし,早く田舎に帰って庭いじりしたい.....。

        ☆              ☆              ☆

まあ,ヒースローへはPaddington駅からのHeathrow Expressの方が断然速くて快適ですから,そっちの方がいいです。地下鉄だと狭いし,スーツケース置く場所もありませんからね.....。

heathrow airport terminal5.jpg 大混雑のterminal 5

ヒースロー空港は2008年にターミナル5が開業し,大幅に改造されています。以前のターミナル1は2015年に閉鎖されています。iruchanもターミナル5を使うのは初めてです。

ただ......。

はっきり言ってゲロ混み。

出発に利用した羽田より混んでいて大変。それこそ人とすれ違うのも苦労するくらい混んでいるところもあって,帰りに空港でフィッシュ&チップスで昼飯,なんて考えていたらレストランもゲロ混みで,こんなんじゃおいしく食べられないのでドラッグストアで買ったサンドイッチで昼飯。まあ,イギリスのサンドイッチは結構おいしいので,これはこれでいいんですけどね.....。

それにしてもゲロ混みなのはあきれた。おまけにいつまで経っても出発ゲートが表示されない。普通はゲート横の椅子に座って本でも読んで待っているんですけど,それもできそうにない。

これじゃ,大変だなぁと思ったら,すでにターミナル6の計画があるらしいです。

まあ,やはり空港というのはその国の景気や利益ばかりじゃなく,そもそも国力を反映しているわけで.....,混んでいると言うことは結構なことです。帰りに着いた成田は薄汚く,がらんと空いているし,今の日本の状況を反映しているな,と思いました。おまけに東京まで1時間もかかる成田エクスプレスはやっぱりいただけない。駅の出札は大混雑だし,単線だからホームは逆方向の列車も来るし,出たと思ったら延々と田んぼの中を走るし.......,初めて日本に来た外国の人は驚くと思います。切符も日本語表記しかないのは驚き。外国からの観光客の皆さんはみんな聞いていました。

NEX切符.jpg 

 これじゃ,どこに座りゃいいのかわからへんやろ!

東京着はなぜか7分延! なんでこんなに遅れるの~~?。E259系も車内が薄汚いし,シートの赤いところも黒くなっていました.....orz。

アナ雪2.jpg アナ雪やってます[晴れ][晴れ]

帰りはBA(英国航空)にしました。行きの飛行機は777だったけど,帰りは787。国際線の787に乗るのは初めて!

やっぱり787は広いし,きれいなので快適。大気圧も1800mくらいなので少し気分も楽,という感じです。

残念ながらBAは映画がショボく,ロクなのがなかったけどアニメでアナ雪があったのに感激!! おもわず成田に着くまで4回も見ちゃいました.....(^^;)。

というのも日本語のほか,英,仏,伊,露,中,韓の7カ国語を選択できます。DVDだとリージョンの都合で日本じゃ,英,仏,伊版以外は見られませんし,そもそも日本版のアナ雪は英語しかついていませんからね。

まあ,韓国語,中国語で見る気はしないし,それに,どう聞いてもイタリア語じゃ,コメディーに聞こえちゃうのでフランス語とロシア語でも見てきました。また,仏,露,伊とも,アナではなくアンナと発音していました。

でも,やっぱり日本語版が最高。もちろん,意味がわかるというのは当然ですけど,何より松たか子さんと神田沙也加さんは歌も吹き替えも非常にうまくて最高!

"Let it go!" は以前,こちらで少し書きました。

フランス語版はどうにもみんな声がハスキーで,声域が低すぎ。歌はエルサのはちょっと違和感あり。特にエルサはシルヴィ・バルタンか,ブリジッド・バルドーみたいな感じがしてしかたない。どうもフランス人って,こういうダミ声が美人の条件,なんでしょうか......。

歌っているのはAnaïs Delvaさんで,カナダのフランス語版も歌っています。ただ,なんか,巻き舌で "Libérée, délivrée" ってどうにも耳についちゃってやな感じです。エンディングは日米は別の歌手でしたけど,フランスは同じ人が歌っています。

ロシア語版は結構,きれいな人が歌ってます。"ヤー,オラフ" ってのだけわかりましたけど。"ヤー,チャイカ"(私はカモメ)なんて言ったおばさんもいたな......(古っ!)

でも,なんかロシア語版もやたらダーと耳につきますね。それに......,

アナの最後のセリフも

frozen no!-1.jpg ニェッ~~~ト!!

でした。

エルサの首を悪党のハンスがはねようとしたとき,止めに入ったアナが最後に叫んだ言葉.....神田沙也加さんのダメ~~っ!! もいいですけど,英語版はNo! なのでロシア語版もやはりニェットでした。

iruchanは,お前はウィッテかよ,樺太全部よこせ~って思いました.....(^^;)。

    ☆          ☆          ☆

ところで,ジェーン・グレイは反逆者とされているので,Queenの称号じゃなく,単にLadyと称されています。

彼女は家柄と長女という立場から厳格に育てられ,ほとんど外出も許されず,読書を唯一の楽しみとして育ったそうです。なんかエルサと似ているな~。聡明な彼女はもし,女王として君臨していたらイングランドの歴史に名を残したかもしれません。

ただ,歴史上,わずか9日間だけだったとは言え,女王として即位しているのですし,そもそも歴史というのは勝者が記録,記述するので,歪曲している可能性もありますから,歴史はのちの歴史家が公正な立場で考えるべきです。

公正に考えればやはり彼女は歴史上,最初のイングランドの女王とすべきでしょう。おそらく,メアリー1世が "She was not Queen." と言った(言いそうな)のを歴史家が忖度してそのように書いていたのでしょう。

それにしても悪党のハンスがアナを見殺しにして,エルサを斬首して権力を握れば正統性を主張して歴史が枉げられていたでしょう。後で牢獄にぶち込まれたハンスを国外退去処分にしたのはいただけない。アレンデールの国内法できちんと裁くべきだったでしょう。とはいえ,殺人未遂で終わってしまっているので,ロシアのニコライ皇太子に斬りかかった津田三蔵同様,死刑にするには難しいかと......。

彼を殺人未遂罪で裁き,無期徒刑に処した大審院長の児島惟謙は日本が法治国家であることを国内外に示した偉人だと中学の時に習いました。しかし,児島は翌年,花札賭博の罪を着せられ,職を追われているし,後世はパッとした活躍をできていないようです。結局は,正しいことを言ってもこの国では正しく評価されないんだ,ということを知ったのはずっと後のことです。

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黒部ルート見学会&さよならトロリーバスツアー [紀行]

2018年8月26日の日記

一昨日まで,iruchanは家族を連れてかやうなところを見に行つてをりました。

第4号水車.jpg

    この写真は何なのか,わからへんやろ!!

黒部川第四発電所の発電用プロペラシャフトです。毎分360回転で回っていて,60Hzの交流を発生させます。同期発電機の回転数はn=120f/pで表されますから,20極の発電機,と言うわけですね.....。ものすごい轟音とともに,周囲にかなりの風を引き起こしています。頑丈な扉で隔てられていて,外はとても静かです......。そういえば,発電機内部の風による電力の損失があるので(風損と言います),発電機内部は質量の小さい水素ガスで充填して風損を減らしている,と言う話を聞いたことがありますが,ここは普通の空冷式で,そうなってはいません。

ペルトン水車.jpg 巨大なペルトン水車

直径3.3mのステンレス製で,重量12tあるそうです。砂粒で表面が荒れる,と説明がありましたが,キャビテーションによる潰食もあるのでは,と思います。普通,水力発電所はフランシス水車かカプラン水車と決まっていますけど,黒四は高落差のため,ペルトン水車です。ノズルは6本とのこと。

黒部ダム観光放水.jpg 

     夏なので観光放水中です。すごい迫力。

黒部ダムって,アーチダムなんですけど,ウィング形と言って,左右にこのように逆向きのアーチ部分がありますが,これは重力式ダム構造になっていて,黒四ダムがこうなったのは岩壁の強度が上部ほど弱くなっていたためのようです。当初案は普通のアーチダム構造だったようです。

iruchanは北陸の人間なので,黒部ダムというとやはり特別な存在です。それこそ,iruchanは昔からなぜか水力発電に興味があり,小さい頃から本を読んだり,TVのドキュメンタリー番組を見たりしましたけど,このダムがすごいことは子供の頃からよく知っていますし,破砕帯や高熱トンネルと言う言葉ももちろん知っていました。自然と闘って克服した,人間の偉大な勝利,というと,今では少し前の価値観という感覚があるのですが,北陸の人間としては,やはり誇りの対象。どこか,精神的な支柱という感じがするのはiruchanだけでしょうか。また,iruchanも子供の頃から,たくさんの犠牲者を出したこともよく知っていて,尊い人命の犠牲の上に電力の恩恵を受けている,ということは小さい頃からよく意識していました。といって,北陸にあるからと言って北陸電力のダムじゃないし,ここで発電した電気を使っているわけじゃない,というのを知ったのはずっと後のことですけどね.....。

余談ですが,黒部川の水利権は関西電力が持っていますが,戦前は日本電力が得ていて,ここの電力を関西へ送電していた関係で,戦後,関電が引き継いだのだと思います。ちなみに,日本電力は大阪を本社とした会社で,当時,日本には電力会社が5社ありましたが,黒部川第三発電所が完成すると解散し,日本発送電に統合されます。私鉄が関西と関東で阪急,東急に統合されたのと同じ理由で,戦時下の統制によるものです。ちなみに富山地方鉄道というのも1943年に富山地域6社を統合したものです。

ただ,当時は発電・送電と配電で会社が分けられており,関西では配電は関西配電が担当していました。だから,一般の消費者が接するのは関西配電で,うちの親父はいまだに関西電力じゃなく,関西配電と言ってます。ちなみに京都からの電車は省線電車と言っています.....(^^;)。これ,ホンマです。意外に関西のお年寄りの中にはいまだにかういふ人がゐるのです......単にボケとるだけやろ

       ☆        ☆        ☆

ということなのですが,黒部ダムへ行くには,山登りをする人以外は,普通は立山黒部アルペンルートしかないのですが,欅平から奥の業務用の設備を利用してダムへ行くことができます。

黒部川をさかのぼって,黒部峡谷鉄道のトロッコ列車で欅平まで行ったとして,普通の人はそこから折り返してくるしかないのですけど......。

実はそこから先へもレールは延びていて,黒四ダムまで行くことができます。もとは,戦時下の1940年11月竣工の黒部川第三発電所の建設のために敷設されたルートです。しかしながら,欅平から先は温泉地帯であることもあり,トンネルの壁面が100℃を超える高熱隧道があって危険な上,きわめて狭いトンネルやエレベータもあるため輸送量が低く,一般の観光客を受け入れるには容量が足りないというルートのため,一般には公開されていません。

iruchanも子供の頃,親父につれてもらってトロッコ列車に乗りに行きましたけど,そこから先にまだレールが延びていることは知っていました。でも,当時は行くことはできませんでした。それにしても,そのとき,乗った列車は富山地鉄乗り入れの急行 "立山" でした(古っ!!)。懐かし~~~。おまけに宇奈月温泉の駅には "立山" の475系のほか,名鉄のキハ8000系がいて,なんでこんなのがおるんや,と思ったのも懐かしい思い出です。

ということで,欅平から先のルートは一般者立ち入り禁止だったのですが,関西電力の好意で1996年から抽選で行くことができるようになりました。

そこで,早速,実はiruchanは2001年にまだかわいかった嫁はんと一緒に行っています。 まだ結婚したばかりで,子供もいなかったけど,子供ができたら一緒に行こう,と思っていました。

そこで,今年,下の坊主が中学生になったので応募しました。確か,昔は中学生以上だったような気がしますが,今,ホームページを見てみると小学5年生以上ならOKのようです。

これは,本当に素晴らしいツアーです。本当に今,これほど意義深く,いろんな場所を見学できて,しかも美しい大自然に触れて雄大な景色を楽しめるのはもちろん,子供たちにとっては大変な社会勉強にもなるツアーはないと思います。ただ,やはり危険なので少人数のツアーとなってしまい,往復葉書による抽選です。今日の黒部ダムコースは倍率4.4倍だったそうです。

コースは前回は欅平出発のコースでしたが,今回は黒部ダムから下流に向かって進むコースです。歴史的には欅平発の方が歴史の通り進むコースなのでわかりやすいと思いますが,今回は前回と違って黒部ダムコースにしました。

これは,ちょっとひとつ,メリットがあり,なんと,昼食を黒四発電所の会議室で食べられるのです[晴れ][晴れ]

欅平発だとちょうど昼食時間にダムに着くコースなので,レストハウスなどの食べる場所があるから食事はないのですが,黒部ダム発のコースは途中で昼食時間になってしまうためなのですが,普通はそんなところじゃ食事できないので,いい経験ですよね!

さて,まずは大町から出発です。

実は,黒三までは富山側から工事が進められ,また,搬入手段も鉄道でしたが,戦後の黒部ダムは長野県側から工事用資材の搬入が行われました。

そのため,延長5.5kmの大町トンネルが掘られることになりますが,その途中,フォッサマグナを通過するため,大破砕帯に遭遇,ぐしゃぐしゃに壊れた岩盤と40気圧を超える地下水の噴出に悩まされ,わずか80mの破砕帯を通過するのに7ヶ月を要した,というわけです。今度,リニアが中央アルプスを貫通しますけど,破砕帯は大丈夫なんかい? って思いますが......。

信濃大町で大糸線を降り,アルピコ交通の扇沢行きバスに乗り換えます。高速バス用の大きくて静かなバスに驚き!。とても快適でした。

ただ,ツアーは翌朝なので,一度,日向山高原でバスを降りてくろよんロイヤルホテルに泊まりました。とても豪華なホテルで大満足。露天風呂も快適だったし,フレンチのレストランも素晴らしかったです。

くろよんロイヤルホテルイルミネーション.jpg 

  くろよんロイヤルホテルの中庭。イルミネーションがきれいでした。

ホテル前のバス停を8:16に出るバスで扇沢へ。ツアーの集合は10:30なので,もっと遅いバスでもいいのですが,それだとダムの見学ができないので,1時間以上,早く出ました。

扇沢行きバス.jpg アルピコ交通扇沢行きバス

ホテルはこんな美しい自然の中に建っています。

     ☆        ☆        ☆

さて,扇沢からは例によってトロリーバス........なんですが,それは今年までで,来年からは蓄電池式バスに代わっちゃいます。日本でトロリーバスは2社しかないのですが,1社がこれで消えてしまうことになります。ちなみにもう1社は山の反対側のアルペンルート室堂行きの立山トンネルトリーバスで,奇しくも日本ではほとんど同じ場所に2社,トロリーバスがあったことになります。

トロリーバス切符.jpg 

     乗車券も記念タイプになっています。

気動車もJR九州は今後,投入しないと言っていますし,ディーゼルエンジンを使用した交通機関は徐々に消えていくでしょう。ここも,架線のメンテナンスを考えると,蓄電池式バスの方が維持費が安くて済む,という経営判断なのだと思います。もとから鉄道というのは1日ごとに運用が決められ,1ヶ月単位で事故や不意の運用変更がない限り,決められた行程で車両が運用されて,その中に仕業検査や給油などの作業があらかじめ組み込まれているので燃料の補給はやりやすく,仮にバッテリに切り替わっても給油と同じく,どこかで充電する行程を組み込むだけなので,バスや自家用車より,導入は容易です。燃料電池車もそのうち,同様にどこかで水素を補給するだけなので,導入されるかもしれません。

関電トンネルトロリーバス.jpg 黒部ダム駅にて

関電トンネルトロリーバス架線.jpg 

   架線は直流600Vのプラスとマイナスで2本です。

ただ,水素のインフラが遅々として整備されませんし,車両の初期コストもべらぼうなので,もはやEV車との勝負はついたと思います。EVだと家庭で充電できますしね。動力用の200Vの配線工事は比較的簡単なので,わざわざ水素ステーションまで行くのは面倒ですし,今,ガソリンスタンドがどんどん消えて行っているくらいなのに,今後,水素ステーションがどんどん増えていくとは思えません。間違いなくFCVは自家用車としては使用されないと思います。某社のMIRAIの未来はない,と思っていますけど......。

iruchanはかろうじて,鉄道か,トラック,バスなどでFCVの目があるかもしれませんが,これも大容量,高速充電,低コストのバッテリーが開発されたらどうなるかわからないと考えています。下手すると常温超伝導が実現して,超伝導式の電力貯蔵装置ができたらFCVは不要でしょう。

このバスに乗るのも久しぶりですが,やはり,鉄ちゃんがたくさんいる感じ。バスは4台,発車しましたが,座席は満員で,立つ人も出るくらいで,とても混んでいました。お盆の時期は1本,600人も乗車したそうです.....。

バスだというのに,パンタ(じゃなくてポールですけどね)がついていたり,道路に架線柱がついていたり,色灯式の信号がついているのも不思議な感じ。ちょっと急勾配で,急カーブも多いのが鉄道と違いますが.....。

でも鉄のiruchanとしては,ちょっと寂しい。戦前に作られた富山側のルート同様,信濃大町から鉄軌道で輸送路が作られていたら,今ごろ,信濃大町からアプト式の登山電車で黒部ダムへ行けたかも......スイスみたいだな.....なんて思っちゃいました。

黒部ダムへ着いたら周囲を回ります。1時間半あったのですが,やはり足りませんでした。展望台からレインボー展望台,レストハウスと殉職者の碑を見て,堤体の道路を渡ってダムを一周するには2時間以上必要なようです。

さて,トロリーバス終点の黒部ダム駅駅長室前に集合して親切なガイドの方に案内していただき,ツアーが出発します。

黒部ダムコースの場合はまずはバス(これはディーゼルエンジンの普通のバスです)で30分乗って10.3kmもあるトンネルを通ります。単線トンネルなので,ところどころ待避所が設けられています。このトンネルは黒部ダムから発電所へ行くための資材を運ぶために建設されたものです。

タル沢横坑.jpg タル沢の横坑です。

トンネルはところどころ横坑が設けられ,トンネル残土を排出した跡です。坑口に展望台が設けられています。もちろん,一般の人はそこへ行けませんけどね.....。

タル沢横坑1.jpg 奥に剱岳が見えました[晴れ]

午後になると雲が出て,山頂が見えなくなることが多いそうです。一度,剱岳も登ってみたいのですけどね.......無理[雨][雨]

その次はインクラインに乗車します。斜行エレベータのようなものです。人を運ぶときは人車が台車の上に載り,30人ほど乗ることができます。ケーブルカーのように,途中で交換設備があり,そこで上りの車両とすれ違います。高低差456mで,斜度は30゜のようです。ものすごい急傾斜に驚きます。

これも20分ほど時間がかかります。前回と違って,壁面に液晶モニタがついていて,ビデオを見せていただきました。

インクライン機械室.jpg インクラインと機械室。

インクライン.jpg 途中の交換設備

う~~ん,どこかアポロ宇宙船のランデブーという感じがしました.....(^^;)。

さて,ようやく黒部川第四発電所に到着です[晴れ]

発電機室.jpg 黒四発電所内部

発電機は1963年の送電開始当初,3基設置されていて総出力258,000kWでしたが,1973年に95,000kWの4号機が1基増設されました。今日は電力に余裕があるためか,2基だけ運転されていました。

とてもきれいな内部に驚きます。応接室などもあるのは海外の賓客なども来られるからなんでしょう。それだけ有名なわけです。地下150mに作られているのも驚きで,4基の発電機が設置され,総出力33万5000kWです。

発電機の設置されたホールで記念撮影です。横のスペースにペルトン水車が置いてあります。予備だそうで,時折,クレーンで操作して交換するそうです。

水車は独VOITH(ホイト)社の製造だそうです。DD54の流体継手はMekydro社製ですけど,ほかの国産DLも流体変速機は技術はVOITHが源流ですよね~~。う~~ん,やっぱドイツは強かった.....。

ここの会議室で夢の昼食[晴れ]

ます寿司弁当.jpg ます寿司のお弁当[るんるん]

お弁当は予約制で,iruchanはます寿司のお弁当。子供らはおにぎり(これがでかい!)を扇沢駅で買って食べました。

milestone IEEE.jpg IEEEのマイルストーン賞

名誉ある,米電気学会IEEEのマイルストーン賞です。2010年に受賞しています。ほかに,日本では東海道新幹線が受賞しています。

発電所を見学したらいよいよ上部軌道と呼ばれるトロッコ列車に乗車します。これは黒部峡谷鉄道と同じ軌間762mmですが,建築限界が小さく,さらに小さな客車で,1両あたり定員は10名,機関車もバテロコになっています。なんでそんなに小さいかというと.....高熱隧道があるからです。

ここから先,仙人谷のダムまでは戦後の建設で,黒部川第四発電所の建設のために戦前に設置された軌道を延伸したものです。

黒部発電所前駅.jpg 

中島みゆきが紅白で歌ったのはこの駅で,駅を出て,欅平側に50mほど行ったところだそうです。

上部専用鉄道について.jpg 上部専用軌道

さて,仙人谷ダムまで乗車します。ダムは本当はもう少し上流の十字峡付近に建設する予定だったようですが,1934年に国立公園に指定されたため,下流に移動しました。両側が強固な岩盤だったのが選定された理由のようです。

鉄橋上でトロッコ列車が停車し,仙人谷ダムを見学することができます。

仙人谷ダム1.jpg 仙人谷ダム

さて,ここからいよいよ高熱隧道に入ります。すでに鉄橋上では硫黄の臭いが立ちこめ,ここから先が危険な場所であることがわかります。高熱隧道は壁面の最高温度が160℃にもなるそうです。大部分の壁面がコンクリートで覆工されていて,建設当時とは異なっているようですが,素掘りのところは硫黄が結晶化し,湯ノ花ができていました。

ここでは工事中,高温でダイナマイトが自然発火し,暴発したため多数の犠牲者が出ています。高温のため,冷たい黒部川の水をホースで作業者にかける「かけ屋」が何人もならんで順番に水をかけたそうです。作業も20分が限度で,2時間休憩してまた作業,という今で言えば完全なブラック職場ですね~。いかに戦時下の突貫工事とはいえ,富山県警が問題視し,なんども工事中止を命令してきたそうですが,国策工事が優先され,警察も黙認せざるを得ない状況だったようです。なお,トンネルは1本だけじゃなく,軌道用のトンネルより直径の大きな発電用の導水路も作らないといけないので,高熱隧道は2本あります。

黒部川第三発電所の殉職者は300名を超えると言われています。中には志合谷にあった宿舎が有名な泡(ほう)雪崩で対岸に吹き飛ばされるなど,雪崩による犠牲者も含まれています。

黒四ダムも建設時には171名もの方が亡くなっています。とても戦後の工事とは思えません。今なら工事中止を余儀なくされるでしょう。それほどまでの犠牲を払って電力の恩恵にあずかっていることに感謝したいと思います。

高温隧道壁面.jpg 湯ノ花が咲いています.....。猛烈に暑い!!

レールは硫黄や温泉成分により腐食し,2年ごとに交換しているそうです。

上部軌道バテロコ.jpg 蓄電池式のバテロコ

さて,高熱隧道を抜けると欅平上部駅に着きます。ここからなんと,エレベータで200m下ります。エレベータは米OTIS社製です。さすがに1937年当時,これほど大規模なエレベータを作れる会社はアメリカにしかなかったのでしょう。そんな国と戦争しちゃいけません!!

上部軌道は欅平から仙人谷まで,5.7km線路を延長したのですが,250mも高低差があるため,勾配が40‰を超えてしまうので,線路自体は水平に作り,エレベータで貨車ごと運搬しようと考えたものです。戦後,黒四発電所を作るために,仙人谷からさらに900m延伸しています。

ただ,▼の本を読むと,仙人谷から黒部ダムまで複線の別線を建設し,ダム建設の資材輸送をする案があったようですが,勾配の関係から延長20kmにもなり,経費の点から最終的に大町案が採用されることになったようです。

志合谷.jpg 志合谷を望む

最後の欅平展望台から。上流側に志合谷が見えます。右側に作業員宿舎があり,5階建てのコンクリート+木造の建物がありました。1938年12月27日未明,大規模な泡雪崩が発生し,木造の3階以上の部分のみならず,コンクリート造りの2階部分が対岸まで,600mも吹き飛ばされて84名もの人が亡くなっています。建物の残骸を事故直後には発見できず,結局,翌春,雪が解けてからこの岩壁の上の方で発見されました。2年後の1月9日の午後,今度は阿曽原谷の宿舎を泡雪崩が襲い,火災により28人が亡くなっています。

泡雪崩というのは大規模な表層雪崩の一種で,自然的にはきわめて珍しい現象で,そう滅多に起こるものではないようなので,短期間に続けて2回も起きたのは自然を恐れぬ人間に対する警告,と見る人もいます。

こうしてようやく欅平駅に着きます。ここでツアーは解散。今回のご案内をしていただいたガイドの皆様,本当にどうもありがとうございました。子供たちも大感激で,本当にいい経験になったと思います。また,行きたいと言っています。

黒部川第三発電所.jpg 黒部川第三発電所
欅平の駅のすぐ横に黒部川第三発電所(1940年竣工,81,000kW)があります。この発電所を建設するために高熱隧道が掘られました。今では少し上流に新黒部川第三発電所(1963年竣工,105,000kW)がありますが,これは黒部ダムの完成で水を再利用するために建設されました。

       ☆        ☆        ☆

ここからはいつものトロッコ列車。これ,本当にいつも思うのですけど,日本一楽しい鉄道だと思います。

ただ,驚いたことにむちゃくちゃ暑い!!

台風20号が接近し,南風が吹いているため,富山側はフェーン現象で暑いのですが,前日(22日)の富山市の最高気温は39.5℃でしたから,猛烈に暑いのです。ちなみにこの日は35℃でしたが,欅平でもムッとする暑さで,参りました。

さすがにトンネルの中はひんやりと涼しいのですが,明かり区間は猛烈に暑く,陽が当たった場所は大変な暑さでした。

何度もこのトロッコ列車には乗ったことがありますが,いつも寒く,暑いと感じたことはないのですけど.....。こんなことは初めてでした。

欅平14:38発列車.jpg 欅平駅にて

黒部川第二発電所.jpg 美しい黒部川第二発電所

猫又付近にある1936年竣工の黒部川第二発電所です。総出力は72,000kWで,取水口は小屋平ダムにあります。独バウハウス卒業のグロピウスに学んだ山口文象がデザインしたもので,戦前の名建築のひとつとされています。すでに日中戦争は始まっていますが,まだ周囲の景観に配慮する余裕があったことにホッとします。先ほどの仙人谷ダムも彼がデザインした小屋平ダムを模したそうです。

☆黒部川第一発電所の謎

黒部川は総延長85kmと短いのに標高2,900mのところに水源があるため落差も大きく,また,豪雪地帯にあるため降水量が多い上に周囲は峻険な谷間にあり,ダムの建設に好適な場所のため,早くから開発が進みました。

ちなみに,黒部川でややこしいのは発電所とダムの名前が一致しているのは黒四だけで,あとはバラバラです。簡単にまとめておきませう。

と思ったのですけれど,実は,黒部川第一発電所といふのは存在しないのです........orz。

まあ,次はどうなるかわからないので最初に第一発電所と命名しなかったのでしょう。もっとも,単に第1号ということでは歴史的には弥太蔵発電所がそれで,実際,国土交通省の "黒部川水系河川整備計画" というPDFを見たら,"弥太蔵発電所(黒部川第1号発電所)" と書いてあります。

とは言っても,黒部川第一発電所というのはちゃんと歴史的には存在していて,おまけに過去には第四発電所どころか,第六発電所まで存在したのです。一体,どうなっとるんや.....。

ちょっと本を調べてみました。

関西電力建設部が編者になった,"黒部川第四発電所~世紀の難工事に挑んだ土木技術~" (ダイヤモンド社)という1965年刊行の本に載っていました。

確かに,過去には黒部川第一発電所というのは存在しました。現在は黒東第一発電所というのがそれです。1929年竣工の5,200kWの水路式発電所です。また,黒部川第四発電所というのも存在し,1932年竣工ですが,現在は黒西第一発電所となっています。ただ,いずれもこれらは下流域とされる宇奈月町愛本より下流に位置し,開発したのも黒部川電力(現北陸電力)のため,日本電力(現関西電力)系の黒部川第二や第四発電所のシリーズとは異なります。

まあ,普通は発電会社ごとに名前をつけるでしょうし,名前がダブっていたとしても所有者が違えば,特に社内では混同しない,ということなのでしょうけど,やはり黒部川第一発電所はどこか,と言う問題だと日本電力が建設したもの,と言うことで調べないといけないと思います。

先の本を読むと,黒部川第一発電所は柳河原発電所,と言うことになるでしょう。

  名 前       ダム     有効落差   竣工    総出力

柳河原発電所       ─      125m    1927    54,000kW ※水路式,現存せず

黒部川第二発電所   小屋平ダム   179m    1936    72,000kW

黒部川第三発電所   仙人谷ダム   278m    1940    81,000kW

黒部川第四発電所   黒部ダム    545m    1963   335,000kW

柳河原発電所は1992年,宇奈月ダムの完成に伴い,水没するため廃止になっています。下流側70mのところに新たに新柳河原発電所ができています。

出し平ダム.jpg

  出し平ダム(1985年竣工)。新柳河原発電所の取水口でもあります。

ただ......,この発電所,トロッコ列車からよく見えるんですけど,優美で周囲に調和した黒二発電所と違って,円筒形という発電所とは異なるイメージの建物で,おまけに,まるでシンデレラ城みたいな造りはいただけない。ご丁寧にも外周は石で作ったような模様があるし,てっぺんには西洋のお城みたいにのこぎり形の狭間があるのは驚き! 誰かが攻撃してくるんかい? 湖底深くに発電機があって,湖上には特にエレベータくらいしか設備が必要ないからなんだろうけど,見た人が「あれは何?」って言うようじゃ,まずいんじゃないって思います,って書きながら写真撮るの忘れた......(^^;)。

案外,優れたデザインというものはさっきの黒二発電所もそうですが,お金がない時代の頃の方が多いように感じられます。お金がないのを工夫していいデザインを作った,ということなんでしょう。世の中,そう言うものだと思っています。

黒部川筋発電所の概要.jpg

   黒部川水系の発電所("黒部川第四発電所" から)

なお,愛本発電所というのはさっきの新黒部川第三発電所と同じで,黒部川第二発電所が完成して,その排水を利用して発電するところなので,時代的にも第一発電所とは違います。

黒部川縦断面図3.jpg 黒部川縦断面図(同書)

 う~~ん,それにしても第7ダムまで計画があったとは.....。

なお,黒部川水系で一番古いのは先ほども書いたように,黒部鉄道が建設した弥太蔵発電所(1924年竣工,1,500kW)ですが,1985年に廃止され,現存しません。ただ,その旧導水路などの設備を再利用して1,250kWの発電所を2022年に建設する計画があるようです。

黒部川開発計画平面図'56.jpg 1956年の黒部川開発計画です(同書)

弥太蔵発電所(P/S)の記載もあります。北陸電力の黒部川第一~第六発電所が愛本より下流にあることもわかりますね。各発電所の導水路も描いてあるのでよくわかります。 

     ☆        ☆        ☆

宇奈月温泉で富山地鉄に乗り換え,富山市へ。富山エクセルホテル東急に泊まりました。きれいな部屋に感激。朝食も素晴らしかったです。

ほかにも,新幹線開業に向けてホテルがニョキニョキできていましたけど,やはり新幹線効果はすごいですね。とはいえ,富山発の東京行き最終が21:19なので,ビジネスマンだと(日帰りで)帰ってこい! って言われるわけですから,ホテルは厳しいと思いますけどね....。

翌日は高岡へ出かけます。去年,仕事でiruchanは高岡へ行って,ちょっと観光してきたので子供を連れて瑞龍寺などを見に行きます。やはり高岡の大仏様と瑞龍寺は見ておかないといけないと思います。

さて,富山駅前9:10発の新港東口行きバスに乗ります。ほぼ1時間に1本出ていますが,この後は10:40までないので要注意です。

このバスは廃止になった富山地方鉄道射水線のルートをたどります。途中から廃線跡が見えるのが楽しみです。サイクリングやウォーキング用に整備されているようです。

堀岡発着場.jpg 新港東口渡し船乗り場

1966年に富山新港の建設に伴い,堀岡~越の潟間が廃止になりました。富山県営渡船が開業すると,少し延伸して新港東口まで路線が延びましたが,乗り換えが不便なことから乗客が減り,結局,1980年に全線廃止となっています。残った新湊市側が今は万葉線となっていますね。

射水線跡.jpg 射水線跡の遊歩道

この渡し船も2012年に新湊大橋が開通し,歩道も設けられることになっているので,廃止になるのかと思ったのですが,夜間は歩道が閉鎖されるし,何よりエレベータで上ったりしないといけないのでお年寄りには不便,ということで残っています。ただ,橋開通前にiruchanが以前訪れたときは夜行もあって,夜中にも毎時1本ずつ運航されていたので驚いた記憶がありますが,今は夜行便はなくなり,タクシーによる代行輸送となっています。乗客は少なく,今回はわれわれ家族だけでした。

富山県営渡船.jpg 渡し船です。

無料なのに驚きますが,渡し船が今も残っていて,体験できるのは本当に貴重だと思います。子供らにもいい経験ができたと思います。

万葉線.jpg 越ノ潟駅にて

もっとも,残った加越能鉄道も赤字のため,一時は廃線が危惧されるほどでしたが,2001年に射水市と高岡市が第3セクターを設立し,万葉線となりました。同時に低床式LRTを導入し,運賃も値下げされたことから輸送人員も回復しているようです。実際,この列車も越の潟を出たときはガラガラでしたが,途中からかなり乗ってきて,市民の足として定着しているようで,よかったです。道路交通とは分離されていて定時に運転されるし,何より加減速もスムーズで乗心地もよいのはとても快適です。

もう,うちの子はとっくにドラえもんは卒業しているのですけど,ほかのお子さんが大喜びでした[晴れ]

しずかちゃん.jpg やっぱしずかちゃんはかわいい~~[晴れ]

某社のCMで,大人になったしずかちゃんを水川あさみがやっていて,ぴったりだと思いましたけど,気ぃ強そう~~。こんなの嫁にしたら大変......って思いました[雨]。女はほんまにわがままですからね......。うちの嫁はんも.....(以下,自粛)。

ただ,なんか藤子不二雄のマンガって,女の子はしずかちゃんみたいに誰もかわいく描かれていて,しかも金持ちのお嬢さんと決まっているのに,大人の女性はどれもブサイクでデブだったりするのは何でしょ。特に,母親がどれもメガネかけていたり不美人と決まっているし,性格的にもガミガミとうるさく,きわめて現実的? で,とても理想の母親像というわけじゃないのは何か変!! といつも思います......。普通はアニメの母親って,おじゃる丸の母親(カズマの母親じゃない)や,しまじろうやペネロペの母親(人間じゃないやんか)のように,とても優しくてかわいいと決まっていると思うのですが.....。

富山黒醤油ラーメン(次元).jpg 富山名物ブラックラーメン

なんでこんなに黒いのか,と思うくらい真っ黒なスープが有名な富山のラーメンです。駅前のらぁめん次元さんでいただきました。iruchanは魚介黒醤油ラーメンをいただきました。やっぱ,ラーメンは魚介スープだよなと思っているiruchanなので,同じ魚介スープの津軽ラーメン同様,とてもおいしかったです。親切な女性の店員さんにも感激!

高岡大仏.jpg ハンサムな大仏様。

万葉線・末広町駅から歩いて5分ほどのところにある高岡大仏。1933年に青銅で鋳造された阿弥陀如来座像です。男前なことで有名ですが,神々しいお姿が本当にイケメンな大仏様です。

駅の反対側から歩いて15分ほどで瑞龍寺に着きます。ただ,あまりにも暑い! 女子供連れでは厳しいのでタクシーで行きました.....軟弱者!!

瑞龍寺山門.jpg 国宝の山門です。

昨年,仕事で高岡へ行った折に訪問した瑞龍寺は国宝だけあって本当に素晴らしいところ。前田家第3代当主・前田利常が建立した曹洞宗の寺院です。1997年に山門,仏殿,法堂が国宝に指定されました。立派なお寺に娘はすっかり気に入ってしまい,また行きたいと言っています。皆さんもぜひ,お出かけください。

また,驚いたことに冬はライトアップされているようですね。ネットに写真が出ていましたけど,雪がつもった仏殿の姿は本当にきれい。大仏様も雪化粧したお姿はとてもきれいなので,どちらもまた雪がつもったら見に行きたいと思います。


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ヘアドライヤーの修理 [電子工作]

2018年8月18日の日記

National EH5306.jpg National(!)のEH-5306ドライヤーです。

台風16号が過ぎ去ったと思ったら前線が通過し,急に涼しくなりました。今年は猛烈に暑く,参りましたが,少しほっとしています。それにしてもなんだか,このところの気候はおかしい。猛烈に夏が暑かったり,冬に大雪が降ったり,やはり,地球温暖化は恐ろしいと思います。それに,大気の循環が活発になったためか,季節もひと月,早くなっているのではないかと考えています。普通だったらまだ残暑が厳しいし,9月になっても暑い日が続くと思うのですが.....。

さて,今日はiruchanはドライヤーを修理します。

前からうちの女どもがドライヤーが古いので買い換えてほしい,と言っておりましたが,とうとう,"動かなくなった" (......lucky!) ってな感じで言ってきました。

まあ,そもそもPanasonicじゃなくて,Nationalと書いてますし,製造年は2007年のようなので,もう寿命なんでしょうけど,工作マニアのiruchanは壊れているものは直したいと思います。

原因はすぐに温度ヒューズの断線だろう,と思いました。それなら簡単........と思ったのですけれど......。

一応,ばらして回路を調べてみました。ザッとですけど,こんな感じではないかと思います。

National EH5306 ドライヤ回路.jpg ドライヤーの回路

モータは驚いたことにDCモータになっていて,端子部にシリコンDiが4本ついていて,ブリッジ整流しています。もちろん,ブラシ付DCモータなので,モータの寿命の方が短いと思いますが,後でわかりましたが,原因は電源コードでした。

大きめのシリコンDiが1本入っていて,ターボモード以外の時はAC100Vを半波整流してパワーを半減するようです。DCモータなので,この辺の制御は簡単に済んじゃいますね。ヒータは2系統あるようなので,▲の回路図はもっと複雑だと思いますが.....。

さて,まずは原因調査として,こういうときは,まず,コンセントを抜いて(当たり前ですけど),本体スイッチをonにし,プラグの2つの電極の間の導通をチェックしてみます。

もちろん,電源は入っていないのでモータはまわりませんけど,温度ヒューズが断線してないなら,モータやヒータがつながっているので,ちゃんと導通があるはずです。

ところが,予想通り,本機は導通が∞になっています。どこかで回路が切れちゃっています。普通は温度ヒューズが断線しています。

前も,友人の奥さんが使っているドライヤーが動かなくなった,というので調べたらやはり温度ヒューズでした。

今回もそうだと思いました。

でも.....。

なんとかばらして温度ヒューズを見つけたのですが.....。

温度ヒューズ.jpg なんと,こんな付け方です。

当然,ヒータのすぐそばにあるのですが,何らかの理由でモータが止まってしまって送風停止すると温度が急激に上昇するので,火事にならないよう,温度ヒューズが断線するようになっています。今回,使用されている温度ヒューズは142℃のものです。

ただ,温度ヒューズそのものの交換はできないような構造になっています。どうやっても外れそうにないし,無理にはずそうとするとヒータの碍管を割ってしまいそうです。碍管はセラミックですからもろいですしね.....。

おそらく,松下さんはそもそも温度ヒューズが断線した,ということはモータが焼き切れているとか,ヒータが異常温度になったとか,かなり重大な故障なわけで,温度ヒューズ単体で交換するのではなく,ヒータユニットごと交換して修理するようになっているのだと思います。

ということだったんですが.....。

なんと温度ヒューズは断線していませんでした。テスターで測ってみるとちゃんと導通しています。

とすると,原因は電源コードの断線のようです.......orz。

まあ,これが原因だとしてもかなりドライヤーをばらさないとコードが切れているか判断できませんので,同じことですけどね......。

       ☆         ☆         ☆

さて,今度は電源コードが切れているか,またテスターで調べます。

プラグ側にテスターのリードをつけ,本体側のコードの接続部と導通があるかどうか調べます。

と,ありました。

やはり2本ある銅線のうち,1本が切れているようで,抵抗値は∞になります。

まあ,こうなったらコードごと交換しちゃうのが早いんですけど.....。
残念ながら,使用されているコードはAC125V/12Aと規格が書いてあります。
iruchanは工作マニアなので,電源コードも予備がありますが,どれもアンプ用なので7A用です。これじゃ,定格が足りない!! しかたないので,もとのコードを使います。断線箇所を飛ばせばOKのはずです。

となるとどこが断線箇所か,と言うことなんですが......。

まあ,普通はプラグの根元と決まっていますが,その辺のコードをクネクネして折り曲げてみても導通が復活しません。

今度は本体側の根元かと思って同じことをしてみてもダメです。

コードを外から触ってみてもどこが断線しているわかりません。クキっと曲がるようなところがあればそこが断線しているわけなんですけど......。

そこで,少しずつコードを切って中の銅線を引っ張ってみると.......ありました!!

すぽっと中の銅線が抜けるところがあります。

コード破断箇所.jpg ここが断線箇所でした。

どうも切断箇所は緑青が吹いて黒くなっているような感じもしますけど,素線がすべてきれいに切れています。

コード交換.jpg コードをつけ直しました。

割に本体に近いところだったので,コードを短く切って本体のスイッチや端子板にはんだづけしました。絶縁チューブを巻いて保護しました。危ないので絶縁テープで重ね巻きしましたけどね。

この状態で,再度,プラグの電極間の導通を見ると復活していますので,ちゃんと動作するはずです。

こうしてようやく復活!!

さすがに素人修理じゃ危ないので,本機は予備機にして,また新しいのを買いに行くことにしませう。

       ☆         ☆         ☆

午前中に東京・上野の東京都立美術館で開催されている,藤田嗣治展を見てきました。

藤田嗣治展.jpg とても好きな画家です。

やはり,裸体画がとてもきれいでした......[晴れ]

でも,知りませんでしたが,藤田嗣治が主として裸体画を描いたのは1920年代のパリ時代だけのようです。独特の乳白色の肌を実現し,面相筆を使い,墨で輪郭を描くという日本画の手法を取り入れて,一躍パリの寵児となったことは有名ですね。乳白色の下地に赤ちゃんのベビーパウダーを使っていたことがわかったのは最近のことです。

戦雲漂うパリを逃れ,帰国した藤田は戦時中,有名な "アッツ島玉砕" をはじめとして,戦意高揚のための戦争画を描きました。この "アッツ島玉砕" の絵は国立近代美術館所蔵ですが,いろいろ批判があるため,普通は常設展示されていなくて,なかなか見ることができませんが,本展で展示されていました。iruchanも見るのはこれが2回目です。すさまじい戦闘と凄惨な殺戮を描き,戦争の悲惨さを余すところなく描いた戦争画の傑作とされていますね。

戦後,こうした活動を糾弾され,彼は再びフランスに渡り,そこに帰化して二度と日本の土を踏むことはなかったのですが,本当に申し訳ないと思います。あの時代,みんなが戦争に協力した(させられた)わけですし,彼は父親が軍医総監(藤田嗣章)であったこともあり,"オレはもとから戦争は反対だったんだ。悪いのはあいつだ" と頬被りを決め込んで責任逃れをした日本画壇の責任を一身に負ったのでしょう。"選手が勝手にやった" と主張した,最近のアメフトの不祥事などを見ても,日本人の体質は変わらないようです。

大好きな藤田の絵が見られてとてもいい1日でした。

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中国製7石トランジスタラジオキットのゲルマニウムトランジスタ化~その2~ [ラジオ]

2018年8月11日の日記

完成基板2.jpg やっと,鳴るようになりました......。

さて,前回は中国製の7石(実際には6石ですけど)トランジスタラジオキットをAmazonで購入して,ゲルマニウムTrで作り始めました。

とりあえず,まずは低周波部から組み立てて,順次,テストしていきます。

案の定,ウンともスンとも言いません。それに,普通はスイッチが入ったとたん,ガリッと音がするのが普通ですが,それすら言わないので,これは悪い予感がします.....。

まず,ウンともスンとも言わないのは低周波部のトラブルが予想されます。

問題はやはり,低周波段の2SB171のバイアス回路にありました。

ここは前回も指摘しましたように,S9013Hという中国製Trを固定バイアスで使っています。これは危険な回路で,個々のTrの特性に依存しますので,このままだと簡単に他のTrと入れ替えることができません。おまけに温度的に不安定で,もともとTrという素子は温度係数が正のため,温度が上昇するとさらに電流が流れやすくなる性質があり,危険なのですが,この回路ではそれを防ぐことができません。

Tr固定バイアス回路1.jpg固定バイアス回路

このとき,コレクタ電流ICは次の通りとなります。また,Trは導通状態ではシリコンでVBE=0.6V,ゲルマで0.2Vとほぼ一定と考えてよいので,Vccが一定で,同じTrを使うなら,コレクタ電流はRBだけで決まっちゃうことになります。

          Ic計算式(固定バイアス).jpg       

問題はIChFEの関数になっちゃうことで,hFEというのはTrの品種によっても,また,同じTrでも製造時のばらつきが非常に大きく,平気で2倍や3倍くらいは変わっちゃうので,この回路にしちゃうとほかのTrと差し替えができません。おまけにTrは温度係数が正なので,温度が上昇すると際限なくコレクタ電流が流れてしまうことになります。熱暴走ですね。

そこで,こういうことがないように考えられたのが電流帰還バイアスで,エミッタに抵抗が入っているのが特徴です。特にゲルマの時代は電流帰還バイアスが定位です。▼の図の (a) が正規? の電流帰還バイアス回路です。

Tr電流帰還バイアス回路1.jpg電流帰還バイアス回路

ベースに分流回路を設け,そこにベース電流より多め(10倍以上)の電流を流してやれば,ベース電位はほぼ固定されちゃいますので,自動的にコレクタ電流も決まってしまいます。

          Ic計算式(電流帰還バイアス).jpg

さっきの固定バイアスと違うのは,分流回路にIBより十分大きな電流を流す,と言う条件がありますが,hFEが出てこないことで,Trのばらつきを抑えることができます。

この回路だと温度的にも安定で,仮にコレクタ電流が増えても自動的にエミッタ電位が上昇し,コレクタ電流を制限する方向に作用します。ちょっと負帰還みたいな感じなので,これを電流帰還というのですが,わかりにくい用語だといつも思います。ちなみに真空管の自己バイアスはこの作用があり,過電流が流れると自動的にカソードの電位が上昇し,バイアスが浅くなる(プレート電流が減る)ようになっていて安全です。

Trのパワーアンプに終段のTrのエミッタに0.22Ωや0.47Ωといった低抵抗が入っているのはそのためで,これを省略すると危険です。金田式アンプなんかでは省略してしまっているのですけどね.....。安全を考えたら入れておくべきです。

ただ,どういうわけか,シリコンの時代になると,R2を省略してしまった(b)の回路が増えてきます。Cherryの6石や8石のTrラジオキットもそうですし,シリコンTrを使った市販ラジオはほぼこれです。Trのばらつきが減ってきたからとか,ひとつでも部品を減らしたい,と言うこともあったのでしょうけどね.....。

なぜかこれも電流帰還バイアスの一種,と言うことになっているのですが,iruchanはこれは固定バイアスと言うべきだと思っています。やはり安定性の面では (a) の方が優秀なのは言うまでもありません。今回の中国製キットも高周波部はこの回路になっています。

先ほども書きましたが,低周波部は固定バイアスになっていて,最初,試しにそのままやってみたら思いっきり発振してスピーカから強烈な音がします。オシロで見てみると,4kHzくらいで発振していました。やはり固定バイアスはダメです。

しかたないので,エミッタに抵抗を入れ,きちんと電流帰還バイアスにしたら発振が止まりました。やはりゲルマニウムTrは電流帰還型バイアスでないとダメなようです。

そこで,まずは固定バイアスとなっている,低周波段の定数をLTspiceで決めて抵抗を変更しました。基本的にはA級シングルアンプなので,動作点はロードラインの中点に来るようにします。

今回,低周波用ゲルマニウムTrのSpiceモデルも作りました。東芝の2SB542SB56を作っておきましたので,ご利用ください。この2種類があれば,電圧増幅用と電力増幅用のTrモデルとして使えるでしょう。ゲルマのSpiceモデルはネットを探してもほとんど見つかりませんので,ご利用いただければ幸いです。高周波TrとしてはNECの2SA56のモデルを作りましたので,詳しくはこちらをご利用ください。

Here are the LTSpice models of Japanese low-frequency germanium transistors. 

.model 2SB54 PNP (IS=2.21785661056217E-10, BF=80, EG=0.67, VAF=67, RB=10, RC=1.53846153846154, TF=1.59154943091895E-07, CJC=42p, CJE=63p, MFG=TOSHIBA)

.model 2SB56 PNP(IS=5.28833988298141E-10, BF=56, EG=0.67, VAF=71, RB=10, RC=3.6231884057971, TF=1.59154943091895E-07, CJC=42p, CJE=63p, MFG=TOSHIBA)
 
この,.modelではじまる部分を,LTspiceのstandard.bjtファイルのどこかにコピペしておけば使えるようになります。

XH108-2 低周波部Spice.jpg LTspiceでシミュレーションです。

        ☆         ☆         ☆

ようやくこれで低周波部が動作するようになり,スピーカからもガリガリと音がするようになりました。

ただ,まだおかしい......orz。

どうにも音量が非常に小さいのです。

さんざん原因を調べたところ,やはり5kΩの可変抵抗が不良のようです。どう見てもチャチだし,壊れそうと思っていました。しかたないので,Alpsの基板用に交換しました。

また,出力段のバイアスは河童さんからいただいた基板についていた,SV31を使います。これはバリスタです。

ゲルマニウムTrの時代は,温度補償用によく用いられました。電気的にはDiですが,温度特性がTrと同じのため,出力段の素子の温度補償用に用いられます。オリジナルの回路も1N4118というDiを使っています。

SV31底面.jpg 三洋のバリスタSV-31底面

う~~ん,ひっくり返して底を見たら,ちょっと面白いことに気づきました。

実を言うと,バリスタというのはP-N接合面を持っていて,Diと同じ構造なのですが,出来損ないのTrを使っていた,と言う話があります。Trは初期の頃は非常に歩留まりが悪かったのはよく知られていますが,コストも高いので,ひとつP-N接合ができなかったとか,特性が悪くてリジェクトされたTrの脚を1本切って,バリスタにしていることがあります。SV-31ももとは3本脚だったようで,そういう感じです。英MullardのOCP70というフォトTrも,OC70の出来損ないだという話を以前書きましたけど,バリスタもそのようだったようです。

ところが....。

いつもはiruchanはここにサーミスタを使っているのですが,SV31を使ってみると厄介なことに気づきました。サーミスタだと動作電流でバイアスを自由に変更できますが,バリスタだとそうはいきません。使用してみたら出力段の2SB134に100mAくらいの電流が流れて,触ると熱くなっています。まずい......。

残念ながら,サーミスタだとサーミスタに電流を流すための抵抗を大きくするとバイアスが小さくなりますが,バリスタだと調整できません。しかたないので,ここはバリスタをあきらめ,いつもの通りサーミスタにしました。

さて,ようやくこれで低周波部はOKとなったので,次は局発から調べていきます。

残念ながら,こちらも動作していません......orz。

本機は高周波部(IF含む)はすべて電流帰還型バイアス回路となっていますが,シリコンTrの場合は,少々手抜き? の (b) のバイアス回路となっていることが多く,今回もオリジナルはこうなっています。

LTspiceで回路定数を決め,きちんと電流帰還型バイアスにしてようやく局発が動作するようになりました。

        ☆         ☆         ☆

さて,ここまで来たらトラッキング調整を先に済ませてしまいます。最後でいいんですけど,ゲルマニウムTrを使っているし,例によってカバレージでトラブるので先に調べておこうと思います。高い方で発振が止まる,なんてこともよくありますので.....。

局発はAMラジオの場合,受信周波数+IF分だけ高い周波数を発振させないといけません。今回,IFは450kHzで作ることにしますから,985kHz~2055kHzで発振すればOKです。

またまたところが.....。

予想してたんですが,上が厳しい~~!!

どうやっても1800kHzくらいにしかなりません。これじゃ,受信上限は1350kHzということになっちゃいます[雨][雨]

オリジナルのシリコンTrだと問題ないのかもしれませんが,バリコンを交換するしかなさそうです。

どー見てもチャチなバリコンだったし,これはアカンのちゃうか? と思っていたらやっぱりでした。

しかたないので,やはり日本製のミツミのPVC-20Yに交換したら楽勝で2200kHzくらいまで発振しますから,ちゃんとカバレージが取れました。

頭に来て,LCRメータで容量を調べました。

中国製7石Trラジオバリコン
OSC 5.5pF ~  63.8pF
ANT 5pF ~  144.7pF
 
ミツミ PVC-20Y
OSC 4.44 ~ 64.6pF
ANT 4.47 ~  145.3pF
  
なんだ,悪くないじゃないか,と思ってしまうのですが,トリマがおかしく,メインのバリコンの下限位置だとちゃんと調整が効くのですが,上限位置だとトリマを回してもほとんど変化しません。
 
局発上限.jpg 局発の波形
 
調整は,いつも通り,下限をOSCコイル(コア赤)で決め,上限はバリコンのトリマ(O)であわせます。このとき,局発のTr(2SA353)のコレクタにデジタルオシロや周波数カウンタをつなぐと調整ができます。
 
        ☆         ☆         ☆

次はIFTのコアの調整をしして,きちんとIFに同調させておきます。テストオシレータを450kHzで発振させ,適当な電線をつないでおくと,バーアンテナが受信します。テストオシレータは1kHzくらいで変調できるので,AM変調した正弦波を出しておいて音が最大になるようにコアを調整すればOKです。

ちなみに,iruchanは455kHzじゃなく,450kHzで調整することにしています。PLLシンセサイザのラジオは450kHzとなっていることが多いです。なお,どういうわけか,本機は465kHzのようです。中国はIFが465kHzなんでしょうか......。ちなみに,日本で455kHzと決められたのは1950年のことで,戦後初期のスーパーのラジオは463kHzです。

さて,ここまで来たら普通は放送が聞こえるはず.........なんですけど......。

まだ,ほとんど放送が聞こえません。ダイヤルを回すとかすかに放送が聞こえるところがありますが,ほとんどガーッと言っているだけです。

う~~ん,困ったな~~~

とりあえず,こうなったら疑うのはIFの発振。オシロをつないで各IFのコレクタの電圧波形を見てみます。

すると,やはりIFの1段目が2Vrmsくらいに強烈に発振していました......orz。周波数も480kHzくらいです。

IF1発振.jpg あちゃ~~~~[雨][雨]

まあ,これはよくあることで,今までiruchanも自作のラジオでは必ず経験すると言っていいくらいです。さすがにCherryの6石や8石のキットはそういうことはなく,やはり優秀なキットだと思いました。TrのスーパーのラジオでIF2段のものは必ずと言っていいくらい,発振してしまいます。

原因は,やはりゲイン過大,というのが最大の問題です。

hFEの低いTrに交換する,と言うのも手ですが,よほど初期のTrでない限り,hFEの小さなTrというのはありませんし,そもそも,普通のTrラジオはシリコンTrなんですが,これだったら最低でもhFEは100くらいはありますから,そんなTrを使っていてもメーカー製のラジオは発振したりしませんから,Trの交換は最後の手段と考えます。

手としては,負荷となっているIFTの1次側インピーダンスを下げることです。

具体的には,パラに100kΩくらいの抵抗を接続してQをダンプします。普通はこれで直ります。日立製ゲルマニウムTrを使った自作スーパーもこれで止まりました。

でも,これはダメでした。やはり強烈に発振します。

しかたないので中和を試してみます。

IFTの反コレクタ側のピンからベースに数pFのセラミックコンデンサをつないでみます。

いろいろと容量を変えてみましたが,やはり発振が止まりません。

次に疑うのはIFTとアンテナコイルが結合していること。場合によってはIFT同士が結合していることもありますが,たいていはバーアンテナがIFの漏れを拾って発振しています。

特に,今回の基板が小さいので,アンテナコイルが近接していて,これはあり得そうです。

でもこちらもバーアンテナの接続を外しても発振が止まらないので,IFTと結合しているわけではなさそうです。

ほかには,検波のDiのあとのフィルタの定数が悪く,AGC回路に高周波が漏れているというようなことが原因だったりします。特に,HiFi用ということでここのカットオフ周波数を高くしたり,負荷インピーダンスを小さくしているとこういうことがあります。

あとは,コレクタ電流が大きすぎると発振することがあります。IF段は最大でも1mAくらいが普通で,あまり大きな電流にしてはいけません。結局,本機は0.2mAくらいまで電流を下げました。-Vccからベースに入っている抵抗を最初は22kΩにしていたのですが,最終的に100kΩに上げています。ちなみに,CherryのCK-606は330kΩを使っています。

そこで,820kΩにしたら発振は止まったのですが,さすがにやり過ぎ,という感じで,結局,IF1のベース抵抗は100kΩとしました。

これでようやく局が入るようになり,高校野球中継が入るようになりました[晴れ][晴れ]

最終的な中国製7石Trラジオキットのゲルマニウム版回路は下記の通りとなりました。

7管式収音机回路GE版.jpg

まだ,感度不足で,NHKでもボリウム最大でようやく音が聞こえる,と言う次第なんですが,つづきはまた次回とします。


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中国製7石トランジスタラジオキットのゲルマニウムトランジスタ化~その1~ [ラジオ]

2018年7月17日の日記

急に猛烈な暑さとなりました。一昔前まで考えられなかったような最高気温が記録されています。皆様におかれましては,くれぐれもお身体ご自愛ください。

さて,このところゲルマニウムTrを使ったAMやFMラジオを作っていますが,どうにもうまくいかず,泥沼にはまってしまっているiruchanです。

きょうは,中国製の7石トランジスタラジオキットをゲルマニウム化したいと思います。

以前,国産のCherryの6石8石のキットをゲルマニウム化していますけど,さすがに国産なだけあって,部品の品質もよく,また,初心者向けの電子工作と言う目的もあってか,プリント基板も余裕を持って広々とわかりやすく作られているし説明書も詳しいので,何の苦労もなく,ゲルマニウムTrに置き換えることができました。

残念ながら,昔なつかしい,ACEやHOMERなどとともに,Cherryのキットも製造中止になってしまい,もう入手することが難しくなってしまいました。これじゃ,電子工作に興味を持った子供たちがラジオを組み立てることができないし,工作の楽しみを経験することができないじゃないか,日本はもう終わりだなぁ~~~!! と思っているiruchanです。大げさ?

と,思っていたら秋葉原にある,aitendoというお店で中国製のラジオキットが売られていました。結構,ネットにも載っていて,作った人がいらっしゃるようです。

いつもながら天邪鬼なiruchanはシリコンじゃね~って感じでこれをゲルマニウム化しようと思いました。ACEやCherryもシリコンTrになっていましたけど,それを2SA101なんかのゲルマニウムTr化しちゃいました。

買ったのはK-108Cという緑色の基板のもの。ほかに,K-108Bというケース付の黄色い基板(紙フェノール?)のものもあります。

K-108C基板.jpg K-108C基板

   ここまで作ったのですけれど......。

ただ,結論から先に言っちゃいますと,これらのキットのゲルマニウム化はあきらめた方がよいです.....。

もう,正直言って,えらい目に遭っちゃいました......。

なにより,aitendoのキットはほとんどが説明書も回路図もないのですが,やはりそれは大変困るし,それに,このキットの最大の問題点は基板が小さいこと。SMD部品じゃなく,普通のアキシャルリードの部品を使った基板としてはかなりの実装密度で,容易にはんだづけできません。特に,ゲルマニウムTrだと,金属缶のTO-1型のパッケージが多いのですが,これがギリギリ。IFTのケースに触れそう。TO-1型のTrは外被がコレクタになっているので,GNDに接続されているIFTのケースに接触するとVccをショートしちゃいます。おまけに,K-108Cのほうは両面スルーホール基板になっていて,部品の交換が容易じゃありません。さらに驚いたことに,キットとして売られているものなのに,パターンミスがあり,もとから動作しないんですね。おかげで貴重なゲルマTrを1個,飛ばしてしまいました.....orz。

両面スルーホール基板というのは,現在ではごく普通のプリント基板で,LepaiのLP-2024A+などのアンプでもよく使われています。もちろん,両面ですから,基板の表と裏にパターンがあり,それぞれのパターンを連結するため,金属製の丸い円筒形のスリーブが埋め込まれていて,上下のパターンを連結するようになっています。ま,今じゃ,上下両面どころか,16層なんて基板も出ていますけどね......。

そのスリーブのおかげで,一度はんだづけしたら終わり,という風に考えた方がよく,部品をつけ間違えて再度,加熱して部品をはずそうとすると一緒にそのスリーブも外れてしまうことが多いのです。

こうなったら厄介で,ハンダが載る,ランド部分がなくなっちゃうので,新しい部品のはんだづけができなくなっちゃいます。両面スルーホール基板で部品を取り外すときはこの金属スリーブまで外さないよう,気をつけないといけません。おまけに,パターンの銅箔の接着が弱く,そのうち,パターンもごっそりはがれてくる.....という始末で手に負えません。

さすがに,もとがシリコンTrの回路に,ゲルマニウムTrを使用した場合,バイアス電圧が異なるため,周辺の抵抗値をあとから変更しないといけないのですが,両面スルーホール基板のせいで,部品の交換が非常にやりにくいです。

また,パターンミスの問題のせいで,完成して電池をつないでみてもウンともスンとも言いませんでした。もちろん,このときはパターンミスがあるなんて思いもしません。

これ,たいていはスーパーの場合,局発が動作していません。

やはり,原因はそうで,コンバータのTrのコレクタにオシロをつないでも一直線のまま.....orz。

しかたないので配線をチェックしますが,おかしいところはありません。そこで,Trの各電極の電圧を測ってみてびっくり。局発のTrには松下の2SA101を使ったのですが,コレクタが-7Vくらいで,ベース電圧もまったく同じです。こんな高い電圧になるわけがありません!! おまけに,IF段は,というとどれもコレクタ電圧が-2Vくらいになっていて,異常に低いです。こちらの方はIF段のコレクタ電流が大きすぎることを意味しています。

それに,TrというものはVBEはゲルマTrで0.2V,シリコンで0.6Vくらいなので,ベースにこんな高い電圧がかかっていると,ベース~エミッタ間電圧は最大でも5VくらいでTrが死んじゃいますから,2SA101はお亡くなりになってしまっています。

回路をさんざん見直してみても原因がわかりません。クソ~~~っ!!

頭にきて,原因はベースがどこかで-Vccにつながっているから,と考えて手当たり次第にテスターで導通テストをしてみると,なんたることか,プッシュプル出力段となっているOPTの1次側と導通があります。

まさか.......。

と思って見てみると表側の細いパターンがOPT1次側の金属製スリーブと接触しているではないですか!! これじゃ,もろに局発のTrのベースに-Vccがかかっちゃいます!

基板不良箇所.jpg 基板パターン不良

こんなこともあるんですね~~。メーカ製の基板に欠陥があって,そんなものを売っている,とは思いもしませんでした。

結局あれやこれやで部品を交換しているうちに基板も傷んできたのですべてのTrを撤去し,名誉ある撤退をすることにしました。全将兵を無事に撤退させたキスカ奇跡の撤退と言いたかったけど,将兵が1名犠牲になっちゃってますから,ダンケルク撤退ですね~~~。

        ☆         ☆         ☆

そこで,今回はK-108Bの方にしようかと思いました。こちらは基板が片面基板だし,材質も紙フェノールのようで,色も黄色い色をしています。

ただ,このキットはAmazonでも安く売られていますし,もとは中国製なので,Ali Expressだと送料なしで$6くらいで売られています。iruchanは必要なのは基板だけと言ってもいいくらいなので,Amazonで買いました。Aliは少し不安がありますからね.....。

amazon画面1.jpg 7つチューブってなんだよ.....

そのほか,"週の真ん中では" とか," テストリポート","ケースが戻ってくることはありません" って何? ってな感じで,怪しげな日本語だらけだし,見れば見るほど怪しいことばかりですけど,一応,説明書もついているようだし,Ali Expressなどでも広く販売されていたり,また,You Tubeなどでも製作動画が出ているくらいなので,大丈夫だと思いました。 最近のAmazonで売ってる怪しげな工具や部品同様,注文したら中国から送られてきました。工具類は安くていいものがあるので,結構,利用しています。

とはいえ,このキットの場合,部品の品質には疑問点がつきます。特に,ボリウムとバリコンは捨てて,国産のものに交換しておく方が無難だと思います。IFTは大丈夫ですが,OSCコイル(赤)も国産に変更した方がよさそうです。一応,ディスクリートの半導体ラジオが売られていた時代,IFTもOSCコイルもゲルマ用とシリコン用で分かれていましたし,IFTもTrのインピーダンスにあわせて何種類もありました。

回路はほとんどK-108Cと同じです。説明書も中国語ですが,ついていて,回路図やプリント基板のパターン図もカラーで印刷されたものがついているので,親切です。

内容物.jpg キットの中身です。説明書も付属してます。

  ちょうど2週間で中国から届きました。

さて,ということでオリジナルはシリコンTrを使っていますが,これをゲルマニウムTrで作っていきたいと思います。

オリジナルはS9013HというTrと,S9018HというTrを使っています。どちらも2SC1815などと同様のTO-92型なので,使いやすいです。前者がハイhFEのため,高周波段に使用され,後者が低周波増幅と電力増幅に使用されています。

7つチューブというのは7石,と言うことらしいですが,驚いたことに検波までダイオード接続したS9018Hが使われていることで,ここはゲルマDiにしたいと思います。

S9018H.jpg S9013HS9018H

それにしても,普通,7石というと高周波増幅(RF)つきか,中間周波3段,あるいは他励式コンバータのことを指し,検波用のDiまでは含みません。6球スーパーは高周波つきなのを意味するのと同じで,マジックアイがついていても6球スーパーとは言いませんので,ご注意ください。

だから,本機は6石スーパーです。回路もごく普通の6石スーパーです。特に変わったところは見受けられません。

K-108-468-sch.jpg オリジナルの回路です。

それならゲルマ化は簡単.....と思っちゃったのですけれど......。

実はこれが茨の道。大変な目に遭っちゃいました......orz。

使用Tr.jpg 使用予定のゲルマニウムTr

すべて中古です。三洋のTrはいつもお世話になっている河童さんからいただきました。2SB171はもとはOC71で,松下が蘭Philipsから技術導入して作ったTrです。

どうも,問題は本機の回路がS9013HなどのTrに最適化して設計されているためのようで,Trを交換するととたんに機嫌が悪く,うまく動作しないのです。

S9013HS9018HというTrは中国独自の規格か,と思いましたがオリジナルはフェアチャイルドのようですし,相当昔のTrのようです。海外製もONセミなどがあります。だから,結構,信頼性が高いTrのようです。中国ではたくさんのメーカが作っているようで,ネットで規格表も簡単に手に入りました。末尾のHはhFEのランクのようで,HだとS9013Hが144~202,S9018Hが97~146のようです。

おまけに電極の配置が日本製のTO-92と違って,左からEBCという配置になっているのも好都合。Cherryの6石キットなどだと2SC1815の代わりに2SA49なんかを使ったりしたわけですが,電極の配置が2SC1815はECBなので,ベースだけアクロバティックにピンを曲げて配線しないといけなかったのですが,S9013Hなどだと,電極は同じ配置なんですね~~(^^)。

ただ,残念ながら,基板のパターンはTO-92型なら一直線で・・・となっていればよいのに,わざわざと三角形になっているのは問題で,おまけにベース位置は上下逆で,ゲルマのTO-1型用だとの穴でないとまずいのです。

まあ,多少,ベースのピンを少し逆に曲げてやればいいのですけどね....。

2SB270.jpg こんな風にはんだづけします。

それと,やはりゲルマとシリコンじゃ,バイアス電圧が異なるので,バイアス回路はいじらないといけないのですが,前回までのCherryのキットなどでは,出力段以外はいじる必要がなく,一発で動作しました。ただ,低周波のS9018Hの回路は固定バイアスとなっているため,最低限,変更が必要だとはすぐに気がつきました。

今回もまずはそれで.....と思いましたが,決定的にダメでした。やはりバイアス回路はいじらないといけないようです。

        ☆         ☆         ☆

次回はバイアス回路の変更と調整に入りたいと思います。


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Panasonic AM/FMラジオ RF-626の調整 [ラジオ]

2018年6月24日の日記

Panasonic RF-626-1.jpg Panasonic RF-626 AM/FM radio

ディスクリートで,しかもゲルマニウムTrを使ったFMラジオを製作中ですが,泥沼の西部戦線で膠着状態に陥ってしまっているiruchanです.....(^^;)。

とりあえず,トラッキング調整が終わり,ちゃんと76~95MHzまでカバーしているのですが,まだ放送が入りません。原因調査中です。

ということで,膠着状態になってしまった西部戦線を打開すべく,新兵器を投入します。

その新兵器とは.....。

毒ガスでも戦車でも飛行船でもなく,PanasonicのトランジスタAM/FMラジオのRF-626です.......(^^;)。

Panasonicと謳っていることからもわかるとおり,松下電器の輸出用ブランドで,iruchanが持っているものも25年ほど前に米国人の友人に譲ってもらったものです。

松下電器がNationalのブランドを使い始めたのはwikiを見ると1927(昭和2)年のことのようです。銀座線が開業した年だな......。

ところが,戦後,米国向けに製品を輸出しようとしたところ,すでにNationalのブランドは商標登録されているため,Panasonicブランドを使用することとなりました。第1号はゲンコツこと,スピーカのコーン紙の真ん中に球形のイコライザがついた,8P-W1のようで,1955年のことのようです。iruchanもこの後継のEAS-20PW55を今も使っています。

このラジオは1970年代前半の製造のようです。もちろん,当時はまだICを使っておらず,フルディスクリート9石の回路になっています。日本ではほとんどの地域でFM局がNHKしかない状況がずっと続いていたし,まもなくICの時代が始まりますから,フルディスクリートのFMラジオ,というのは少ないと思います。

残念ながら,サービスマニュアルが入手できていないので,詳しい回路がわからないのですが,Trのラインナップは2SC429-2SC185-2SC184-2SC469×2-2SB173-2SB175-2SB172×2で9石となっています。

驚いたことに,NPNとPNPの混成であるばかりでなく,NPNはシリコン,PNPはゲルマニウムの構成になっています。

これ,よくあった話で,高周波部に性能がよいシリコンを使い,低周波部は安価なゲルマニウムという組み合わせのラジオが結構ありました。たぶん,シリコンTrは高かったのでしょう。それに,そもそも本機のシリコンTrは全部,NEC製なんですけど.....。ゲルマは松下製でしたけど。たぶん,高周波用シリコンTrはNECから買った方が安く,低周波のゲルマは自社製の方が安かったのでしょう。

ふたを開けてびっくり。

Panasonic RF-626'.jpg 内部

 バリコンの右と左にFM用のコイルがあります。トリマはマークがついていました。

まあ,本当によくこれだけ部品を詰め込んだな~と感心するぐらい,びっしりと部品が詰まっています。出力の2SB172なんて,とうとう居場所がなくてリード線を長く伸ばしたまま,OPTの上に寝かされている始末。ちょっとかわいそう~~。

それに,そもそもTrはどこ? って感じで,TO-1型の2SB172くらいしか見えません。高周波用の2SC184などはHEMTなどと同じマイクロディスク型のため,基板裏についているはずですが,探しても見つからないくらい密集して部品がはんだづけされています。どこかに隠れちゃってるんでしょうけど。

IFT類は7mm角のもので,小型になっています。すべて東光製でした。バリコンはミツミのようです。電解コンデンサやスピーカも松下電工のマークがついているし,本当に純粋の日本製で感心します。抵抗は立てて取りつけてありますし,これも居場所がなくてリード線が長く伸ばしてあったり,これじゃはんだづけするのは大変だったろうな~,という気がします。配線したおばちゃんお姉さんたちは大変だったことでしょう。

調整のためか,バリコンにはFOとか,MOとか書いてありますし,IFTのコア位置もちゃんと印がついていたりして,おばちゃんお姉さんたちの苦労がよくわかります。

さて,久しぶりにスイッチを入れてみて,やはり気になるのがボリウムのガリ。動かすたびにガリ,ガリ大きな音がするし,スイッチが入ったとたん,ガリッとひときわ大きな音がするのは特にいやですよね。

これ,昔のトランジスタラジオによくありますよね~~。突然大きな音がするのでiruchanは大嫌いです。早速,修理したいと思います。

また,例によって米国で売られていたものなので,FMは88~108MHzとなっているので,修正したいと思います。

ところが.....。

おそらく,買ったときに調整したのだと思いますが,FMにしてみるとちゃんとNHK FMが入りますし,ワイドFMの局も入ります。

SGをつないで調べてみると下限が76MHzだし,上限は108MHzくらいになっています。

確か,買ったときにいろいろいじって調整した記憶がありますが,うまくいかなくて放ってあったように思います。でも,ちゃんとうまく調整してあったようで,日本の放送局がちゃんと入ります。

と言う次第で,調整はやめにしました。

というより,基板は▲▼のように,内部はびっしり部品がはんだづけされているので,下手にいじるとどこかの線を切ってしまったりしますから,やめた方がよさそうです。

Panasonic RF-626基板裏'.jpg 基板裏。裏も部品がびっしり。

ただ,バリコンの左側に疎な空芯コイルがあり,右側に密な空芯コイルがありますが,米国だと疎な方がOSCコイルのはずで,こちらをいじった跡がありました。どうやら,25年前にこちらをいじって調整したようです。

もし,米国製のラジオを国内バンドに調整したい,と言う方はこちらこちらをご参考にしてください。本機だと,バリコンのOSC側に10~15pFくらいのセラミックコンデンサをパラにする,前者の方法がよいと思います。

        ☆         ☆          ☆

さて,ボリウムのガリを直しておきましょう。

簡単にやるなら接点復活剤をプシューとしてやればいいのですが,iruchanはよほどのことがない限り,接点復活剤は使いません。

理由はスプレー式なので,いらんところにまでかかっちゃうのと,腐食性なので,プリント基板などを傷めちゃうからです。また,当然ながら導電性なので,バリコンにかかったら大変です。決して接点復活剤はバリコンにかけないでください。

じゃ,ど~~するんだよ,と言うことになりますが,iruchanは接点用グリスを使っています。これだと周囲にかからないし,腐食性もないのでいいと思います。

Panasonic RF-626VRガリ.jpg 接点グリスを塗布します。

ボリウムを分解し,摺動面に接点グリスを塗っておきます。使ったのはタミヤの接点グリスです。

結果は見事!!

スイッチをonにしたときも静かですし,ボリウムを回してもガリ,ガリ言いません。なかなか快適です。

その後,できれば電解コンデンサを交換したいと思います。特に,経年40年以上,と言ったところですからね.....。

真空管アンプだとリークが心配ですが,Trラジオだと容量抜けが心配です。どうにも音が小さい,というラジオはカップリングコンデンサの容量抜けが原因であることが多いです。

ただ,例によってあまりに部品が混んでいる上,裏側にもセラミックコンデンサなどが張り付いているし,簡単に電解コンを交換できません。しかたないので,取り外しやすいのだけ,交換しました。あと,FMの音がひずんでいるようなのでレシオ検波の出力にある,4.7μFの電解コンを交換しておきました。

        ☆         ☆          ☆

さて,鳴らしてみると快適。なかなか感度もよく,AMもFMもきれいに受信できます。ただ,やはりFMは感度不足で,現在のラジオに比べると遜色がありますが,まあ,とても40年以上前のラジオとは思えないくらいです。ワイドFMも入るので,プロ野球中継なども楽しめます。

AMは特筆もので,とても音もよく,感度も十分です。

ICも入っていないのに,非常に小型で,しかもTrラジオには珍しく横動式ダイヤル(本機は縦に動きますけどね......)を採用したのも高得点です。米国ではよく売れたようで,eBayなどでは結構な値段になりますし,人気があるようで,今も割に見かけます。小気味よいハイセンスな優れたデザインは米国人の心に訴えるものがあったのでしょう。よき時代の日本製のラジオを復活できてよかったです。

ただ,日本では売れたのかどうか.....。そもそも日本ではFMの本放送がはじまったばかりだし,東名阪の3大都市圏以外は民放がなくてNHKしか入らない,という状況でしたし,当時,8,500円もしたようですから,新しもの好きのお金持ちが買っただけではないか,という気がします。

Panasonic RF-626 panel.jpg 今のPanasonicのロゴとは違いますけどね。

PANASONICと全角フォントで書いたようなロゴがちょっと笑っちゃえますけど。残念ながら,正面の赤いNのマークにPanasonicと書かれた小さなエンブレムは取れちゃっています。eBayのやつを見てもどれも取れちゃっているので,簡単に取れちゃうものだったのでしょう。

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6S19P(6C19P) DCパワーアンプの製作~その1・OTLアンプの出力の計算とトランスレス回路について~ [オーディオ]

2018年6月9日の日記

金田明彦氏設計のオールWE真空管式DCプリアンプを作っています。あと少し,と言うところまで来ました。

つづいて,パワーアンプを作りたいと思います。こうしてオール真空管DCアンプシステムにしたいと思います。

といって,DCパワーアンプですから,当然OTLアンプになってしまうわけですが,真空管でOTLというとやはり大変です。なんと言ってもOTLは大がかりだし,出力管がプレート損失を大幅にオーバーしてしまうなど,設計上も大変です。

ということですが,まずは,出力管を何にするか,と言うのがやはり大問題です。

ただ,さすがにプリがWEだからと言って,パワーアンプまでWEで揃えようとは思いません。実際,金田氏はMJ '01.12月号に,"WE 421Aパラpp DCパワーアンプ"(No.165)として発表しておられますが,WEの421Aなんて4本も買った日にゃ,球だけで10万円近く飛んで行ってしまいます。ついでに予備も......と考えるとガクガク,ブルブル~~~~。

まあ,WEの421AはRCAの6AS7-G6080と同特性ですから,これらの球で作れば安く作れますし,実際,iruchanは6080を持っているので,それで作ればいいんですけど,この球は扱いにくいことで有名で,過去,いろんな人が書いていますが,OTLを作ると調整で手間取るようです。発熱もすごいし,プレート電流が安定しすぎ? ていて,アイドリング電流の調整だけでも長時間かけてやらないといけないようです。

と言う次第ですが,iruchanは昔からOTLのアンプが好きで,いろいろと球を集めてあります。

多極管だと30KD640KG6AなどのTV水平偏向管が考えられます。ただ,これらはちょっと大きすぎるので,25E5とか,12G-B3Aなんかが昔からよく使われています。
とはいえ,OTLで多極管を使うと,スクリーングリッド用の電源も必要なので,とりあえず,3極管で考えます。

候補としてはNECの6R-A2でしょうか。これは正直,OTL用として作られた唯一の球だと思います。やはりとても使いやすく,いい球だと思います。

ほかにはレギュレータ用の6R-A312B4Aが考えられます。大型だと6336Aがありますね。LUXがOTLアンプを出していました。

実は,iruchanは全部持っているんですが,今回,6S19Pを起用することにしました。6R-A26R-A3は別のアンプにしたいと思います。

なお,金田氏も含め,昔からこの球は日本では6C19Pと表記されますが,ロシア文字の6С19Пという球はラテン文字では6S19Pですので,こう表記させていただきます。海外だとちゃんと6S19Pと書かれているので,日本は変だと思います。ちなみに,ロシア文字で6C19Pという球もあり,これはTVのダンパ管です。

6S19Pは昨年末,ウクライナからたくさん仕入れました。比較的,6R-A26R-A3はいまでも秋葉原で見かけますし,そんなに高いわけじゃないので入手可能ですが,OTLなので最低16本くらいは必要となるので,やはり安い球の方がよいです。

その点,6S19Pは今でも@1,000円くらいで購入できますし,iruchanのように海外に直接注文すると〒込みでも@200円くらいで買えます。

ということですが,金田氏も過去,いろいろ記事を発表しておられます。

一番古いのはNo.146(MJ '97.6)ですが,その後,No.193(MJ'07.7,8),No.201(MJ '09.5, 6)とあります。やはり小型で値段も安いし,使いやすい球なのでしょう。

ただ,問題は電源。OTLアンプは電源で手を焼いちゃいます。

なにより,OTLであると同時に,OCL(アウトプットコンデンサレス)なので,出力段は正負両電源になっちゃいます。さらに,高圧のドライバ段用電源も必要なので,電源の設計が大変です。特に,出力段は高圧(150~200Vくらい)で大電流なので,設計が大変だし,おまけに出力段は固定バイアスになっていることが多いので,バイアス用の巻線も必要で,トランス式だとトランスは間違いなく特注になっちゃうのでコスト高になっちゃいます。

実際,金田氏の初期のDCパワーアンプはトランス式で,Rコアタイプの特注電源トランスを使っています。

ただ,iruchanはRコアトランスはどうにも好きになれないんですよね~。あまりに大きいし,不格好なので.....。

普通のEIコアのトランスだと,シャシーの上に載せてもかっこうよいですが,さすがにRコアだとそんな気がしません。また,あまりに大きいので,別シャシーとなっています。これだとシャシー代も倍になっちゃうし,かなりお金がかかります。

そこで,金田氏はトランスレスとした回路を発表しておられます。6S19PだとNo.201がそうです。40KG6Aなどだと,No.207がそうです。

しかし!!

iruchanはトランスレスにする気は毛頭ありません。これだとトランスはいらないし,非常に軽くて低コストなアンプができます。また,柱上トランスの巻線抵抗が小さいので電源インピーダンスが低く,音もよいと書かれています。

でも,iruchanはやはり大変危険なのでトランスレスはやめにします。感電する危険性が非常に高いです。実際,iruchanはラジオマニアなので真空管のラジオもいじっていますが,やはりトランスレスのものは過去,何度もうっかり感電したことがあります。当然ですが,場合によっては死ぬこともあります。

トランスレス,というのは真空管の時代,トランスが非常に重くて,高価なので,よく採られた手法です。ラジオやTVでよくそういった回路が使われていました。問題となるヒータはIh=300mAとか(ラジオ),450mAや600mA(TV)で揃えておいて,全部直列にすると100Vになるような組み合わせにしてヒータもAC100Vから取るようになっています。ただ,全部の真空管のヒータの立ち上がり時間を揃えておかないと,ウォームアップ中に特定の球のヒータに高電圧がかかってヒータが切れちゃうので,ウォームアップ時間は日本では11秒と決められていました。とはいえ,実際に使ってみるとやはりばらつきがあるらしく,特に,AC100Vは電源のインピーダンスが低いのでラッシュカレントが流れて,特定の球のヒータが一瞬,電球みたいにパッと明るく光ることも多かったのでヒヤヒヤしましたが,この瞬間に電球みたいに切れる,と言うことはなかったと思います。

B電源は倍電圧整流にすることが多いです。ラジオはそのまま35W4で半波整流というのが多かったです。

もちろん,シャシーにはAC100Vの片側の線が接続されているので,シャシーに触れると感電します。たいていの場合は高抵抗が挟んであって,直接,シャシーに触れて感電しても電流が抑えられてはいましたが,心臓が止まるくらいの電流が流れてしまうこともあるので,大変危険です。

人体の抵抗はおおよそ数kΩでしかなく100Vがかかると数十mAもの電流が流れます。汗をかいていたり,濡れていたりすると1kΩを下回って,100mAを超える電流が流れます。この場合,心臓が停止します。100mA以上の電流が流れると死にます

とはいえ,ラジオやTVの場合は,シャシーはちゃんとキャビネットに収められ,ツマミ類もプラスチックでできていて,直接,加圧部分が人体に触れるようにはなっていなかったので,そうたいした問題にはなりませんでした。

ただ,アンプの場合はシャシーが金属製ですし,むき出しですからね~。やはり電源側に絶縁トランスを入れることを考えたいと思います。


☆日本の家庭内配線について

ちょっと,ここで日本のAC100Vの配線について調べておきましょう。電柱から一般家庭への配線は次のようになっています。クリックすると拡大します。

家庭用AC100V配線図.jpg 

              日本の家庭内の配線

電柱の上に載っている柱上トランスが三相AC6600Vを単相200Vに変換します。なお,柱上トランスの2次側は中点が接地されています。

柱上変圧器1.jpg 柱上変圧器です。

うちの近所の柱上変圧器です。なぜか,1個赤くなっていました。なんで赤いのか,ちょっとわからないのですが,詳しい方教えてください。

高圧の6600Vは三相なので,太いケーブルが3本入っています。一番上に架空地線と呼ばれる接地線があり,避雷線となっています。低圧線が200Vの単相3線として各家庭につながっています。各家庭では,接地線を挟んだ2本の電線のうち,どちらか1本を使って100Vを受電するようになっています。

とすると,どうしても1次側が三相不平衡になるんじゃ.....,と思ってしまうのですが,その辺は大して問題ないそうです。

接地線.jpg 接地線が配線されています。

よく見ると電柱の根元の方まで接地線が伸びていて,接地されていることがわかります。

実を言うと,このせいで,AC100Vの電線は対地電圧をもってしまい,対地電圧100Vの方に触れてしまうと,感電します。

それだったら,中点を接地しなければいいんじゃないのか? 

そうしておけば,2つの線を同時に触らない限り,感電しねぇんじゃないのか!

って,思っちゃいますよね。

でも,これはダメなのです。

なんでか,と言うと,もし,柱上トランスが落雷などで絶縁不良になってしまうと,2次側に6600Vが現れてしまうから,です。さすがに対地電圧が6600Vになってしまうと危険なことはおわかりいただけると思います。

日本の一般家庭の電圧は100Vなので,柱上トランスから出てくる,3本の電線のうち,2本を使って100Vを取り出しています。単相だし,電線が3本あるので単相三線式と言います。普通のご家庭の電力量計のところに,3本電線が来ていると思います。場合によっては2本しかない場合もあり,その場合は単相2線式と言います。

まあ,どっちでもいいのですが,どちらにしろ,AC100Vの電線は片方が接地線で,対地電圧は0Vです。こっちがシャシーにつながっていれば感電しないので,金田氏もこのようにするよう推奨されています。

ところが.....。

いつ,誰がプラグを逆向きに差すとは限らないし,こうなると,電圧線(対地電圧100V)がシャシーに接続されているので,感電します。せめて,英国みたいに接地極のついたプラグを使って,強制的にシャシーが接地されているような構造なら,仮にアンプ内で逆に配線してあってもブレーカが飛ぶだけだし,逆配線じゃなくても,絶縁不良などでシャシーに漏電してもシャシーは接地されているので安全なんですけどね....。もっとも,日本の家は木造だし,畳が敷いてあったりするので,絶縁性が高く,おかげで感電しないこともあって,今まで日本の家庭用配線は安全が軽視されてきたように感じます。とはいえ,iruchanは何度もトランスレスのラジオをいじっていて感電したことがあるので,油断してはいけません。

米国のように,せめてプラグの左右の金属の幅を変更し,逆向きに差せないようにしてあれば,つねに接地線側に差すこともでき,比較的安全ですが,日本はまだプラグがそのようになっていませんし,そもそも,コンセントの配線が逆になっていることも多く,▲の図のように,縦に長い方が普通は接地線なんですけど,たまに電気工事屋さんが間違えて逆になっていることがあります。屋内配線は接地線が白で,電圧線が黒になっているので,普通,黒=GNDなので,間違えちゃうんでしょうか。それとも,どうせ線間電圧は100Vですから,別に逆にしたってちゃんと電灯はつくし,TVなども動くので,問題はねぇ~よな,といい加減に考えちゃったのでしょうか。

実を言うと,うちの職場で最近,LED式の照明に代わったのですが,灯具を交換中,配線が1ヶ所,そうなっていたようで,漏電ブレーカが飛びました......[雨][雨]

だから,少なくともPTLの機器を接続するときはコンセントの極性を検電ドライバーで確認する必要があります。

コンセント極性チェック.jpg 検電ドライバーで極性を確認しませう。左側が接地線です。

コンセントは通常,縦に長い方が接地線で,短い方は電圧線です。わが家は正しく配線されていました[晴れ]

その意味で,パワーアンプなんだから,ノイズは大して問題ないのでシャシーとは絶縁しておけばよい,と言う考え方もあり,実際,金田氏も "パワーアンプのGNDはシャシーから浮かせて配線すると感電しない" と書かれていますが,確かに,これだとパワーアンプに触っても感電しないのですが,プリアンプやCDプレーヤなどは信号のRCAケーブルの外被(コールド)がアンプのGNDとシャシーにつながっているので,パワーアンプのプラグの極性によってはプリアンプのボリウムに触れたとたん,感電する,と言うことになりますのでやはりダメです。と言う次第で,トランスレスは大変危険です。

アンプGND配線.jpgアンプ内のGND配線

ただ,安全のため,3Pプラグで電源コードを作っておけば,シャシーはコンセントを通じて強制的に接地されますので安全です。洗濯機や電子レンジに接地線がついていて,接地しないといけないのはこのためです。残念ながら,日本の一般家庭ではほとんど3Pコンセントになっていないのが問題なんですが.....。

どうも日本の家庭用の電化配線は電圧が100Vしかなくて貧弱だし,感電防止の観点からも電化製品の筐体を強制的に接地する構造になっていなくて,安全軽視だと思います。

以上の観点から,iruchanはトランスつきで作ることにします。

となると,次なる問題は,トランスの容量をいくらにするか,と言うことです。これは結構大問題です。


☆出力段の設計

トランスの容量を決めるために,まずは出力段の最大所要電流を求める必要があります。

ここでようやくロードラインが出てきます。OTLのアンプの最大出力を求めるとともに,そのときの最大プレート電流を求めます。

残念ながら,金田氏は出力については事前に計算した結果を載せておられますが,最大のプレート電流については記述がないので,特性曲線から求める必要があります。

ついでに,金田氏は6S19PのDCパワーアンプについて,4パラで15.13W(8Ω)と報告しておられます。この点についても確認したいと思います。

さて,まずは特性曲線ですね.....。

と思ったら,なんと,ロシア語で書かれた6S19Pの規格表にある特性曲線は驚いたことに,EC=0Vの線がありません!!...........(爆)

これじゃ,最大出力は計算できません。

確かに,EC=0Vの曲線のところはひずみが多いので,昔のアンプの教科書なんかを見ると,電圧増幅回路だとひずみ重視のため,最大出力電圧はEC=-0.5Vくらいのところで計算したりしているのですが,まあ,出力段は普通は0Vの線で評価するので,この線がないと困ってしまいます。

6S19P特性曲線.jpg 6S19Pのプレート特性曲線

困っちゃったのですが,OTLのアンプの出力を求める場合,規格表に載っている特性曲線を大幅にはみ出しちゃうので,いずれにしろ,規格表のデータをそのまま使うことはあまりないんですけどね.....。

実測することも考えたのですが,かなり面倒だし,結局,LTspiceでシミュレーションしてEC=0Vの曲線を求めました。

幸い,6S19PのモデルはAyumi氏が発表しておられるので,ありがたく使わせていただきます。

6S19P ロードライン(8Ω,16Ω)-1.jpgLTSpiceで求めた特性曲線です。

線がLTSpiceで求めたEC=0Vのデータの近似曲線で,それ以外の,などはロシアの真空管規格表のデータです。大体,よいところに来ていると思います。

ロードラインは スピーカのインピーダンス×出力管パラ数 で引きます。8ΩのSPで2パラ出力段だと16Ωで引くことになります。▲の図ではSP 8Ωの線は実際には16Ωで引いてあります。

なお,真空管のプレート電流は0バイアスの時はプレート電圧の1.5乗に比例するのですが,やはり多少ずれていて,Excelで近似曲線を求めると▲の式となりました。

6S19P ロードライン(8Ω).jpgロードラインを引きます。

今度はすべてSpiceのデータをExcelでプロットして曲線を引きました。

金田氏の6S19P DCパワーアンプはトランスレスのものは4パラ,Ebb=135Vで動作しますが,iruchanは初期のNo.146同様,2パラで作ることにしました。No.146ではEbb=160V,出力8.4Wと報告されていますが,iruchanはNo.201と同じ回路で作りたいと思っていますので,Ebb=135Vとなりますが,出力段は2パラにします。

出力はまずは135Vのところから線を引きます。縦軸の交点は135÷(8×2)となります。×2は2パラだからで,出力管1本あたりの負荷抵抗は倍の16Ωとなります。

そうすると......。

なんと,8.4375Aのところが交点となっちゃいます!ひぇ~~~っ!!

そんなところまでプレート特性曲線は描いていないので,結局,やはりExcelで引くことになっちゃいます。

昔はEC=0Vの曲線を手読みしたあと,両対数のグラフにプロットしてその線を延長して遠く離れた位置のプレート電流,電圧を読んで再びもとの特性曲線にプロットする,なんてやっていましたが,いまはExcelでできちゃうので便利な時代になりました。

さて,いよいよ最大出力などを計算していきます。OTLアンプはB級ですので,半導体のパワーアンプの設計と同じです。

よく,▲のロードラインとEC=0Vの線の交点から下ろした線で構成される三角形の面積として説明されています。実際,結論としてはそうなんですけど,

          最大出力.jpg 最大出力の計算式です。

本来は電圧と電流の実効値の積が出力なので,正弦波の場合,波高値の1/√2が実効値ですから,最大出力は

          最大出力1.jpg 

ということで,結局は一番上の式になっちゃうんですけどね。

ちなみに,Eb_min=126V,Ib_max=630.9mAと求められましたから,出力は上式から,2.8Wと求められます。2パラですからこの倍で,片ch.で最大5.7Wが出ることになります。

まあ,この5.7Wという出力をどう考えるか,なんですが.....。

NECの6R-A2の規格表にはEbb=150V,16Ω動作時に6.2Wの動作例が載っています。8Ωの場合はもっと小さくなりますし,6R-A2は150Vでの動作例ですから,6S19Pの方が大出力になると思います。

No.146のようにB電圧を上げて,160Vにしてやると8Wを超えるんですが,球の寿命の問題もありますので,B電圧は135Vのままとしたいと思います。

続いて,球の最大プレート電流および最大プレート損失について求めます。

最大プレート電流は正弦波の半波のピーク値がIb_maxということですが直流電流としては、平均値ですので、

    最大プレート電流.jpg 最大プレート電流です。

積分まで出てきますけど,何のことはない,最大プレート電流は Ib_max÷πです。

なお,最大プレート損失はスピーカへの出力の半分を引くことができますので,

         最大プレート損失.jpg 最大プレート損失です。

一応,プレート供給電圧Ebbはこの最大プレート損失も考慮して決めたいと思います。

結局,iruchanはこれらの計算を何回もやるのはめんどくさいので,Excelのマクロで一発で計算できるようにしました.......(^^:)。

OTLアンプ出力計算マクロ.jpg Excelの出力計算マクロです。

負荷抵抗とパラ数,プレート供給電圧を入力すると,ボタン一発で上記の計算をしてくれます。

結果です。

負荷抵抗8Ωの時は,

6S19P 出力(8Ω).jpgRL=8Ω

Ebb=135Vのときは先ほどの計算どおり,5.7Wですが,Ebb=160Vのときは9W以上出ることがわかります。金田氏の計測結果どおりです。4パラだと18.5Wとなります。

160Vの時を計算してなくて申し訳ありません。各計算値などは使用する予定の絶縁トランスの端子電圧からもとめたB電圧の値です。

ただ,プレート損失はEbb=135Vのときは25.7Wですが,Ebb=160Vのときは40W近くになっちゃいます。6S19Pのプレート損失は11Wなので,4倍近い値になっちゃってちょっとかわいそう,という気がします。135Vの時だと2倍強という範囲で収まりそうです。

ちなみに,スピーカのインピーダンスが16Ωの時はこうなります。

6S19P 出力(16Ω).jpgRL=16Ω

Ebb=135Vでも出力は10Wも得られて十分です。

スピーカの公称インピーダンスが8Ωになってから久しいですし,最近では6Ωや4Ωのスピーカも普通になってきていますが,真空管のOTLのアンプは16Ωで設計することが多く,最後の方で,"スピーカが8Ωだと○○Wになる" と言う風に書いてありました。やはり,16Ωだと8Ωの時より大きな出力が得られますし,プレート損失も少ないので,スピーカは16Ωの方がいいですね~。

さて,と言うことで,結局はやはりEbb=135Vで考えることとしました。やはり,ちょっと160Vじゃ,出力管がかわいそう,という感じがします。

さて,と言うことからいよいよ所要のトランス容量ですが.....。

確かに,プレートの最大電流×プレート電圧(W)×2(正負電源)×パラ数(今回は2)×チャンネル(2)と言うことになろうかと思いますが,このままだとトランスの容量が大きくなりすぎます。まあ,音の余裕,と言う観点からは大きい方がよいのですが,シャシーの大きさやコストの問題もありますからね~。

真っ正直にこの考え方で計算すると6S19Pのアンプは最大出力時に両ch.で約280Wの電力を消費します。とすると,力率100%と考えて280VAのトランスが必要になってくるのですが......。

A級アンプの場合は最大出力時でも無信号時でも消費電力は同じなので,やはり280VAのものが必要ですが,OTLのアンプはB級なので,同じ容量でなくてもOKです。まさか,正弦波で連続最大出力を出すわけじゃありませんしね。

この記事でも書きましたように,トランジスタ技術'03.8号に,デジタルアンプの電源容量について解説があり,デジタルアンプの場合は最大出力の1/3が必要,と書かれています。一方,AB級のアナログアンプの場合は1/8でよいとあります。もちろん,オーディオのアンプは正弦波で連続出力するわけじゃないので,最大出力分の容量が必要なわけではないからです。

ということで,本機では余裕を見て最大プレート電流の1/3を確保することにしました。もちろん,A級動作部分(アイドリング電流)と,前段の電圧増幅部はA級アンプなので,この部分は最低限,絶対に確保しておかないとトランスが焼けますので注意が必要です。

本機では,A級部分は240mA必要で,前段をステレオで20mA程度と考えると最大容量は大体130VAくらいになります。

ただ,タンゴの半導体用電源トランスPB-80Sの規格表を見ると,AB級20~50Wステレオ用と書かれていて,容量は19V×2×2.3Aですから,87.4VAです。合計の最大出力100Wのアンプにこれだけの容量ですから,かなり贅沢なトランスだと言うことがわかります。やはりタンゴのトランスはよかったな~と思います。

ちなみにA級15W用のA-35Sだと152VAです。改めて計算してびっくり。PB-80Sより容量が大きいのか~。やっぱ,A級は大変ですね。

さて,こうして電源と出力段の設計も終わったので部品を手配することにします。

電源用のトランスはトロイダルにします。トランスレスアンプの絶縁用ですから,電圧は1種類だし,EIコアやRコアで特注しなくても,という感じです。それに,最近はRSコンポーネンツなどでトロイダルトランスが安く手に入りますからね。

AC100Vを絶縁するだけでよいので,1次:2次が115Vの仕様のものでOKです。これだと完全な汎用品なので安いです。選んだのはMOUSERで売っている,Triad Magnetics製の553-VPT230-700という型番で115V:115Vで160VAのものです。これで5,000円ほどなのですから驚きです。大きさはφ103mm×H48mmと小型です。

実を言うと,▲の計算通り,Ebb=160Vにして出力10Wというのを考えたのですが,トランスがいいものがなく,これだと1次100V,2次120Vのものが必要です。実際,Plitronなどでこういうトランスもありますし,Triadのも医療用のものにこういう巻線のものがありました。ただ,B電圧が高すぎて6S19Pの損失が大きくなりすぎるので今回はあきらめました。いずれ,6R-A212B4AのOTLを作ろうと思っていますが,そのときにこういうトランスを使おうと思います。

次回はB電源回路ほかの設計です。


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ゲルマニウムトランジスタ スーパーヘテロダイン方式FMラジオの製作~その4・調整編~  [ラジオ]

2018年5月19日の日記

ようやく局発の動作に成功し,泥沼の西部戦線を脱してパリに向けて進撃中のiruchanです。

局発が動作するとスーパーのラジオは難所を越えています。もう90%完成,という感じなんですけどね。そろそろパリも砲撃する射程距離に入った....という感じなんですが....。

☆局発の動作確認

まずはスーパーのラジオだとAMもFMも局発が動作しているかどうかの確認が必要です。
 
やはりオシロが必要だと思いますが,AMの場合,局発が動作するとスピーカーからガーッと言うAM特有のノイズが聞こえますので,オシロがなくても割に簡単です。それに,AMの場合,配線間違いをしなければまず局発が動作しますしね。
 
AMの場合,たまにものすごい雑音がするか,何にも音がしない場合があります。これはIF段が発振している証拠で,これもオシロを検波のところのDiにつないでみるときれいな正弦波が見えるのですぐにわかります。
 
まあ,何にも音がしない,というのは高周波で発振しているわけなんですか,もちろん,配線ミスでIF段が動作していないということもあります....。
  
IF段が発振している場合,IFTのインピーダンスが高すぎ,IF段のゲインが高くなりすぎて発振しています。正攻法の対策はIF段のTrやIFTの交換なんですが,まあ,普通,そこまでする必要はなく,たいていはIFTの1次側に100kΩくらいの抵抗をつないでIFTのQを下げてやると発振が止まります。また,1次側の配線が逆だと発振する原因になります。
 
Trはインピーダンスが低いので整合を取るため,IFTの1次側の同調回路はタップが入っていて,Vccがそのタップに接続されるようになっています。IFTからコレクタにつながる側のピンを間違えるとインピーダンスの整合が取れず,発振しますのでご注意ください。
 
☆IFTの調整
 
さて,局発が動作したら調整に入ります。
 
ところが,またここで難敵に遭遇し,泥沼にはまってしまいました......orz。
 
局発が動作したらIFTのコアの調整をします。アンテナ入力にIF信号(AMだと455kHz,FMだと10.7MHz)の信号を入れて,検波後のオーディオ出力が最大になるよう,各IFTのコアを回します。信号発生器SG(蒸気発生器じゃありません。EF57やEF58じゃないってば。古~~っ!)には1kHzのAM変調がかけられますので,これでやるとスピーカーからピーッと言う音がするのでこの音が最大になるようにします。
 
そのあと,トラッキング調整をします。
 
FMでも実は同じで,リミッタがついているのでこの音は聞こえないはず.....と思ってもちゃんと聞こえるのでIFTの調整ができます。
 
ところが.....。
 
やっぱり,まだウンともスンとも言いません。
 
おっかし~~なぁ~~。
 
でも,よく考えてみるとFMラジオはAMと違って,高周波増幅段(RF)がついているので,アンテナ入力にIFを加えても同調しないので,音が聞こえてくるわけがありません。
 
なあんだ,考えてみれば当たり前のことなんですが,こんなことすら気づくまでに時間がかかりました。iruchanはいままで,ディスクリートのAMラジオは何度も作りましたが,FMは初めてですしね.....。もっとも,IC式のFMラジオは何度か作りましたが,これらはもちろん,RF段がついていますが,非同調増幅器なので,こういう問題はありません。
 
改めて局発の出力についているIFTに10.7MHzを注入します。IFTの1次側コイルにSGをつなぎます。局発が動作していると調整が面倒なので,▼のように局発のコイルを接地して局発の動作を停止させます。
 
FM IF&トラッキング調整箇所.jpg調整箇所です。
 
こうしてようやくIFTの調整ができました。スピーカーからピーッと言う音が聞こえるので,それが最大になるよう,IFTのコアを回します。
 
☆トラッキング調整
 
さて,ここまで来たらまた局発に戻って発振周波数の範囲を決めます。
 
AMだと上側ヘテロダインですから985~2055kHzで発振すれば,535~1605kHzをカバーできますが,実はかなり難しく,きちんとここまでできることは少ないと思います。やはり範囲が広すぎるんですよね~。どうやっても完全にカバーできないことがあります。
 
FMの場合は世界的には周波数が88~108MHzだし,同じ上側ヘテロダインなので,局発は98.7~118.7MHzで発振させる,と言うことになりますが,日本は下側ヘテロダインなので,この記事の通り,65.3~79.3MHzで発振させます。もっとも,今はワイドFMやってますから,上限は84.3MHzにしたいと思います。こうすると76~95MHzがカバーできます。
 
ところが,ここまで来てiruchanのFMラジオはどうしてもトラッキングが取れません。
 
受信できる範囲は大体,60~75MHzと言ったところで,10MHzほど上でないといけません。
 
一応,▲の図にもあるとおり,局発の発振波形はt.p.と言うところにプローブをつなぐと見ることができますし,周波数カウンタをつなぐと周波数が確認できます。周波数を確認したらちゃんと65MHz以上で発振していましたから,ちゃんと76MHzから受信できるはずなんですが.....。
 
なお,FMはもちろん,AMでも局発の波形は局発コイルや局発のTrのコレクタにプローブをつなぐと観察できますが,プローブをつないだことにより発振周波数が変わるのでご注意ください。直列に数pFのコンデンサをつなぐと影響が軽減できますが,やはりどうしてもつなぐと周波数が変わってしまいます。本機も5pFを直列につなぐように基板上に配置しましたが,プローブをつけると1MHzほどずれました。
 
さて,今回のトラブルは局発の周波数が低いためと考えて,局発コイルをいろいろ変えてみてもダメ。何回トライしても受信範囲はこれくらいです。低いのはイメージを受信しているためのようだと思ったのですが.....。
 
ただ,局発コイルをインダクタンスの小さなものにすると下限が上がってくるのはわかりましたが,今度は上限がまったく変わらないどころか,そもそも受信できなくなってしまいます。
 
う~~ん,なんでこうなるのかわかりません......[雨][雨]
 
でも,よ~く考えてみるとやはりまずいのはFMはRFつきであること。さっきのIFTの調整と同じで,RF段がまずいのですね。RF段の同調周波数と局発の発振周波数がきちんと全帯域で10.7MHzだけずれていないといけないのですが,途中で外れてしまっているようです。
 
つまり,ディスクリートのFMラジオは同調式高周波増幅回路になっているため,当然,負荷が同調コイルになっています。ですから,この部分の同調周波数が一致していないとうまく受信できません。低い方は音がするのに,高い方が出てこない,というのはとりもなおさず,このRF段の同調周波数が上の方でずれているからです。
 
ようやく原因がわかりました。
 
とすると,怪しいのは▲の図のRF段の同調コイルかバリコンの調整が必要です。どちらかを交換しないとダメな感じです。
 
改めてここで使用しているバリコンの同調容量を調べてみました。使っているのは横浜のテーダブリュ電気製のもので,非常に出来がよいものです。背面にTWDと書いてあるものです。さすがは日本製,という感じでiruchanも愛用しているのですが,さすがに数が減ってきて入手困難になってきているのは残念です。
 
改めて容量を測ってみてびっくり。意外に大きいんです。
 
メーカ      型番              min.   max.
TWD   4.43 24.01
20.7 40.72
韓国 CBM-223 3.39 22.78
10.52 30.04
 
それぞれ,上段がトリマ最小,下段がトリマ最大のときの値です。TWD製は最大40pFと言うところで,iruchanはFM用のバリコンは最大20pFと思っていたので驚きです。エアバリコンのFM用のものや,ポリバリコンのミツミ製PVC-2FMなどは最大23pFですので,少しTWD製のは大きめのようです。特にトリマが16pFもあるのは大きいです。まあ,調整しろが大きい,と言うことなのでアマチュアには便利なんですが。
 
キャパシタンス測定.jpg 台湾DER社製のLCRメータDE-5000で測定中
 
秋月で売っている台湾製のLCRメータです。0.1μH程度のFM用の空芯コイルまで測定してくれるので便利です。 
 
最近入手可能なポリバリコンは黒い樹脂製の韓国製CBM-223というバリコンですが,これは少し容量が小さいです。
  
これに交換しようかとも思ったのですけど.....。
 
残念ながら,どう見ても作りがチャチ。ネットを見ると中の絶縁用のポリエチレン樹脂が破ける,と書いている人もいますし,ケースの樹脂も割れやすいポリスチレンのようですし,薄いです。iruchanのもトリマの羽根が傾いていて,間にポリエチレンが入っているのでちゃんと回転するんですけど,羽根が重なるときに樹脂を巻き込む感じなので,そのうち破れてしまうと思います。
 
と言う次第で,やはりTWDのものを使うことにします。
 
となると,調整すべきはコイル,と言うことになります。まずは前回,LTspiceでコンバータをシミュレーションしていますが,RF増幅回路もシミュレーションしてみました。
 
FM RF(2SA56+TWD).jpg 76MHz入力のとき
 
76MHzを受信するとき,必要なインダクタンスは0.085μHであることがわかります。
 
幸い,iruchanはRF段のコイルにはFCZ研究所製の10S144を使っています。これはコア入りのため,インダクタンスを可変できます。普通,FMは空芯コイルを使いますが,これだと調整が厄介だし,特にRF段と局発のコイルのインダクタンスが近いため,結合して発振することがあるので,このようにコア入りだとシールドケースに入っていて,結合しにくいのも便利です。
 
バリコンと同じように台湾製のLCRメータでインダクタンスを測ったら0.084~0.135μHでしたので,ギリギリ範囲に入る,と言うことがわかります。
 
同様に,局発もバリコンの容量が大きいと局発コイルのインダクタンスも変わるので調べておきます。 
 
FM局発(2SA56+TWD)1.jpg 最終的な定数です。
 
FM局発FFT.jpg 
 
  ちゃんと65MHzくらいで発振することがわかりました。
 
局発コイルL3のインダクタンスは0.116μHです。φ5.5mmの塩ビ棒にφ0.5mmのUEW線を6回巻いて作りました。これを伸び縮みしてインダクタンスを調整します。 
 
トラッキング調整.jpg トラッキング調整の様子
 
受信範囲の調整は局発コイルL4とバリコンのトリマCt OSCで行います。下限をL4のインダクタンスで決め,上限をCt OSCで調整します。このとき,SGの発振音が聞こえない場合はCt ANTをいじって聞こえるようにします。
 
ただ,RF段の調整は同様にL2とCt ANTで行います。下限はL2,上限をCt ANTで決めます。順番としては,局発のトラッキング調整の前にやるべきだと思いますが,今回は同時にやっちゃいました。
 
ようやくこれで76~95MHzで強力にSGの発振信号を捉えるようになりました。これで放送が入るはず.....です。
 
と言うことで,トラッキング調整もAMと違ってFMは非常に厄介です。
 
☆ディスクリ調整
 
次は周波数弁別器の調整です。ディスクリミネータというので,日本でもディスクリの調整なんて言うことが多いです。
 
今回,FM検波としてはフォスター・シーリー回路を採用しています。2次側に同調回路を持っていますが,同調曲線がS字状のカーブになるため,入力の周波数に比例した直流電圧(実際は音声信号で変調されているので交流になりますけど)を取り出すことができます。詳しくは前回をご覧ください。 
 
FM検波回路にはレシオ検波がよく使われましたが,フォスター・シーリー同様,コイルの1次側,2次側ともに同調回路になっているので,複同調となっています。
 
真空管のIFTだと複同調が当たり前ですが,Tr用はTrのインピーダンスが低いこともあってほとんどが単同調になっています。ところが,FM検波段だけ,複同調のためコアが2つ必要で,FM検波のIFTは2個使うか,それを1つのケースに収めて細長いケースになっています。後者だとすぐにどれがディスクリIFTかわかるので便利なのですが,前者だとなかなかどれがディスクリかわからないのでちょっと困るのですが,たいていはすぐ並んで配置されていますので,わかります。
 
今回,FCZ研究所の10.7MHz用IFTを2個使用します。1次側,2次側ともに10.7MHzに同調させればよいので,IFTの調整の時と同様,局発から10.7MHzを注入し,オシロで検波出力を観察して最大になるようにコアを回します。
 
       ☆         ☆         ☆
 
1918年3月,西部戦線に巨大な大砲が出現します。列車砲として知られた独クルップ社製の通称パリ砲(Paris Gun)です。その名の通り,パリを砲撃する目的がありました。ドイツ軍ではKaiser Wilhelmと名付けられていました。
 
口径210mm,砲身長21mの巨大砲で,106kgの砲弾を130kmも飛ばしました。最大射高は42000mにも達しました。
 
たぶん,ドイツ領内での試射の時の話だと思いますが,技術者や将校たちは射撃すると奇妙なことに気がつきました。仰角が45゜ではなく,50゜以上にした方が遠くに飛ぶ,と言うのです。実は,砲弾が成層圏に達していて,空気抵抗が減少するので,仰角が高い方が遠くまで飛びました。人類が作ったもので初めて成層圏に達したものとされています。
 
3月21日木曜日の朝7時18分,最初の砲弾が発射され,15分間隔で初日に21発が着弾しました。
 
当初,フランス軍はツェッペリン飛行船からの爆撃と考えたようですが,破片を分析した結果,砲弾であることが判明し,それも前線のはるか後方から発射されているらしいと判明して驚愕します。最初はベルギー・リエージュの12個の要塞をたった2週間で沈黙させた42cm榴弾砲かと考えられましたが,そもそも榴弾砲は迫撃砲の一種ですから砲身が短く,長距離は飛びませんから,何らかの巨大砲と考えられました。
 
パリ砲は8月までに320発以上を発射し,犠牲者は250人に上ったようです。すでにアメリカが参戦していましたが大部隊が到着する前に決着をつけようと,第1次世界大戦最後の大攻勢にあわせ,砲撃を開始しました。ただ,巨大砲弾と言っても中身は7kgのTNT火薬しかないため爆弾の威力としてはそれほど大きくなく,これなら第2次世界大戦中にB17爆撃機がドイツに雨あられと投下した1t爆弾の方が威力は大きいです。フランスを屈服させる新兵器,と言うよりはパリを砲撃して戦意をそぐという意味合いの方が濃かったようです。
 
第2次世界大戦ではさらに巨大なグスタフとドーラと名付けられた2門の巨大砲が作られますが,フランスが予想外に早く屈服したため,実際にパリに向けて砲撃することはありませんでした。
 
いよいよiruchanもゲルマニウムTrを使ったフルディスクリートのFMラジオが完成に近づきました。さあ,パリに向けて砲撃開始!!!!..........してはいけません!!

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ゲルマニウムトランジスタ スーパーヘテロダイン方式FMラジオの製作~その3・IFTとFM検波回路について~  [ラジオ]

2018年5月6日の日記

前回でようやく局発が動作するようになり,泥沼の西部戦線を脱してパリに向けて進撃中のiruchanです。今日から調整に入りました。

さて,ようやく本格的に調整,と行きたいところですが,まだ未設計の箇所があります。

実は,検波段をまだ設計していないのです。

というのも,第1回にも書きましたけど,まずはIFTが問題なのです。そもそも,今どきTrラジオ用のFM IFTを入手しようとすると手に入らないのも問題なのですけど,特に,FM用の場合,検波段用のIFTが特殊で,これを入手できないと組み立てられないのです。

ラジオ部品のお店でも,もう売ってはいないと思います。まだAM用は手に入るのですけどね。と言って,FM用は昔も簡単に手に入ったか,と言うと昔でも売っている店を見かけたことがありません。やはりFMは難しすぎて,作る人もいないので売っていなかったのだと思います。

でも,熊本のFCZ研究所が最近まで10.7MHzのIFTを作っていました。iruchanも大変ありがたくそれを使わせていただいています。

ただ,このIFTは1種類しかありません。

厳密に言うと,IFTは4種類必要なのです。FMは特に,最後の検波段用が面倒で,専用のIFTが必要となります。また,前回も書きましたように,初段用は同調コンデンサがないので,これも特殊です。

そんなこと言うと,AM用も同じで,真空管で2種類,Tr用で3種類あるのです。

これらは使用する位置で決まっていて,AMだと変換管に使うものと,中間周波増幅管に使用するものの2種類があり,たいていはA,Bという記号がついています。Tr用は中間周波2段ですから,A, B, Cの3種類が必要です。コアに色がついていて,それぞれ,黒となっています。順番に,コンバータからこの色のコアのIFTを使います。

ついでに,局発コイルも同じ形状ですが,コアがに塗られています。もちろん,これはIFTじゃありませんが,2次巻線があるのが普通です。

だから,AMのTr用IFTは4種類セットで売られていることが多いです。

とはいえ,真空管もそうですが,今どき全種類のIFTを入手することは難しく,特に真空管だと455kHz用として1種類しか売られてないことも多いです。

で,これらを2ヶ所に使っても問題ないのか,ということですが,ほとんど問題ないと思います。Tr用だって,1種類しか手に入らなくて,全段に同じものを使っても問題になることはないと思います。

なんでこのように種類があるのかというと,微妙に使用するTrにあわせてインピーダンスが変えてあるためで,さらに検波段用の真空管のBとTr用のC(コアは黒)は2次側のインピーダンスも下げてあって,2極管やダイオードの低いインピーダンスに整合するようになっているからです。

ところが,FMの場合はそれだけじゃありません。

真空管用は2種類,Tr用は3~4種類あります。特に最後の検波段用が特殊で,AM用と違ってほかとまったく違う巻線構造になっているのでほかの色のコアのやつを流用することはできません。また,前回も書きましたように,初段(コンバータ)用は同調コンデンサがありません。

検波用が特殊なのは検波回路がAMと違って当たり前ですけどねいるためです。

FMはレシオ検波を使うことがほとんどですが,レシオ検波は巻線構造がほかと違い,3次巻線まで必要な特殊な巻線構造になっています。それに,そもそもTr用のIFTはAM用のも含めて,単同調になっているのが普通ですが,FMの検波段用だけ複同調になっているのでコアが2個必要です。これを1個の箱にまとめて,長方形になっているものもありますし,バラバラで2個になっているものも多いです。

       ☆        ☆        ☆

ということで,やはりFM用のIFTは大変なのです。

それと,もう一つ,iruchanには大きな疑問が.....。

FM用のIFTのコアの色がわからないのです。

確か,ピンクとか,とか,AMとは異なる色だったのですが,何色が何用なのか,わからないのです。

当然,AM/FMの2バンドラジオだと調整時に間違えると危険なため,AMとは違う色が使われているのですが,それが何を意味するのかわかりませんでした。

そこでいろいろ調べたのですが,わかりません。JISで決められているのかと "JIS C6421 放送受信機用中間周波変成器" を見ても色の規定はありません。

そこで,国内某2社にメールで問い合わせてみました。

1社は "型番を特定していただかないとお答えできません" の一点張り,もう1社は ”コアの材質によるものです” とのこと。どちらも答えになっていませんね。

特に前者はどうも若い人らしく,端末を叩いているだけの人のようでした。横のベテランのおじさんに一言聞くか,図書室で古いカタログでも見てくれれば,何かわかるんではないかと思ったのですけど.....。

世界的にどのIFTもこのような色が使われいるので,何か決まりがあるはずだと思ったのですけどね。

それにしても今,日本のメーカに何か問い合わせをしてみると,どこもこのような対応です。めんどくさいことを聞いてくれるな,と言わんばかりの応対ですし,完全に無視で返事が来ないこともきわめて多いです。この2社は答えが来ただけマシ35なのかもしれません。

それどころか,半導体などの規格表をダウンロードしようとしたらいちいち登録しないとダウンロードできないのはもちろん,JIS規格や特許など公的な資料を調べようと思ってもネットには出ていません。JISや公開特許公報くらいはPDFでダウンロードできないといけないと思うのですが,実際,米国特許庁USPTOだと1790年からの公報が見られます。どうやら,日本の場合,これらの資料を販売している業者さんがいるので,無料でPDFで公開できない,と言うことらしいのですが,一体何だかな~って感じです。これじゃ,日本でビジネスをしてみたい,と言う外国企業は日本をパスしてしまうと思います。

ちょっと脱線しちゃいました。

結局,いつも大変お世話になっている河童さんに伺ったところ,1971年発行の東光のカタログをいただきました。

ようやく,FMのIFTはオレンジの順でIF1,IF2となっていて,レシオ検波用のは2個あって,入力側がピンク,出力側がと言うことがわかりました。また,前回も書きましたとおり,はコンバータ用で,これには同調コンデンサが接続されていません。ほかにシリコン用はIF段共通で黒色のものがあるようです。それと,おそらく後述のクォドラチャ検波用のコイルもあるはずで,それはまた別の色に塗られているはずですが,そこまではわかりませんでした。

これでようやく謎が解けました。部品屋さんで見つけたり,ジャンク基板から取り出す際などにご参考にしてください。

ただ,これは必ずしも全社統一されていたわけではなさそうで,検波段はという組み合わせもあるようです。と言う次第で,下手すると今どきディスクリートでFMラジオを作ろうとすると,ジャンクのFMラジオの基板から取り外した方が早い,と言うことなのかもしれません。

       ☆        ☆        ☆

さて,ここまで来たところで,やはり問題は検波段用のIFT。ピンクのコアのIFTが入手できればレシオ検波ができるのですけれど.......。

eBayや海外の部品屋さんやサープラスショップも探してみましたが,無理なようです。

といって,iruchanは実はレシオ検波用のIFTの入手が無理なのは先刻承知で,別の方法を考えていました。

ひとまず,FMの検波についておさらいしておきましょう。

最初のFM検波回路はスロープ検波でしょう。

中心周波数をIFとは少しずらしたIFTを用意します。その中心からずれたところの傾斜したカーブを利用し,その領域にIF信号を通すと周波数に応じて振幅の変わる波に変化します。これをAMみたいにDiで整流してやれば周波数に比例した直流が得られることになりますね。これがスロープ検波です。以後のFM検波はこの方式を踏襲して,やはりFM波を周波数に比例したAM波に変換するのが目的です。周波数弁別器なんていかめしい日本語がありますが,英語ではdiscriminatorで,日本語でもディスクリなんて言ったりします。

スロープ検波の場合,やはり傾斜したカーブが非線形なのでどうしてもひずみが発生するのでHiFi向きじゃありません。

次に考えられたのが,IFTの2次側に2つ,やはり中心周波数のずれた同調回路を設けるものです。複同調検波回路とか,発明者の名前を取ってトラビス回路とか言います。

これも2つの中心周波数がうまく配置されていないとひずみを生じますのですぐに廃れました。

本格的なHiFiのFM用としてはRCAのFosterとSeeleyが発明した,フォスター・シーリー回路が有名です。

ひずみも少なく,本格的なFM用として普及しますが,残念ながら,AM妨害に弱く,どうしてもリミッタが必要なため,この点を改良したのがやはりRCAが開発したレシオ検波です。

これはリミッタ作用があり,安価なセットではリミッタを省略しています。

このレシオ検波はFM検波の主流となり,真空管の時代からTrの時代になっても,さらにはICの時代が来るまで主役でした。チューナーもソニーの名機ST-5000Fがレシオ検波です。このチューナー,Marantzの真空管式10Bを凌駕する,という触れ込みがありました。1971年開発なのでICをまったく使っていないフルディスクリートのチューナーで,とてもあこがれました。う~~ん,昔はよかったな~。

一方,周波数弁別器と異なる原理に基づいたFM検波方式も開発されています。

有名なのはゲーテッドビーム管の6BN6ですね。位相検波と言われます。一種の5極管ですが,グリッドが2種類あり,スクリーングリッドに相当するG2にIFに同調したタンク回路を接続すると,そこに主搬送波と90゜位相がずれた信号が発生し,G1に加えられたIFと積を取ると位相のずれに比例した直流がプレートに出る,と言うものです。

おまけに6BN6はリミッタ作用もあり,また出力電圧は数Vと大きいため,直接出力管をドライブできることもあって,TVで普及しました。TVではトランスレス用の3BN6がよく使われました。ほかにも,6DT6FM1000などの専用管も開発されていますね。ただ,ひずみが多いので,HiFi用としては用いられませんが,リミッタ作用は強力なので米Scott社のチューナにリミッタとして用いられています。

ICの時代になると,同様の乗算器をIC内部に作り,クォドラチャ検波として多用されることになります。今でもラジオ用のICはこのクォドラチャ検波を採用しているものが多いです。なにより,セラミックディスクリミネータが開発されると,これはLCのタンク回路と違って単なるセラミック共振子ですから調整不要というメリットもあり,現在は主流となっています。レシオ検波はコイルを使っている関係上,どうしても調整が必要で,調整をするおばちゃんかどうかしらないけどの人件費がもったいないと言うよりおばちゃんは怖い,というわけです.......。

ほかにも,ICの時代にはPLLが簡単に実用化できるようになり,PLL検波というのもあります。これはIFに追随したVCO(電圧制御発振器)を作り,その制御電圧が音声そのものとなる性質を利用したものです。

そのほか,通信機で用いられたパルスカウント検波なんてのもあります。

これは,IF信号を一定幅のパルス列に置き換え,そのパルスを積分することにより音声信号を取り出すものです。

1980年代に入ると郵政省が各県に1局,民放の設置を許可するようになり,多局化が進められるとにわかにFMブームとなり,チューナーも売れたので,昔から高周波の得意なトリオがチューナーに採用しました。いかにも高級そうだし,音もよさそうなのでiruchanもとてもあこがれました。KT-9900とかL-02Tなんて,いまでも中古価格が10万円を超えるくらいだし,大変な高級チューナーでしたよね。

ただ,パルスカウント検波はそのまま10.7MHzのパルスでやることはほとんどなく,もっと低い周波数に変換してからやるのが普通です。

その1980年代は各社,差別化を図るため,このように検波方式もバラバラで,競っていました。そんな中,関西の某大手家電メーカがレシオ検波をHiFiにぴったりだと売り出して笑っちゃったことがあります。ラジオはともかく,もう当時すでに使われることはない技術だと思いましたけどね......。

さて,こうやってFMの検波にはいろんな方式があるのですけど,ディスクリート回路に使えて,しかも簡単な方式でレシオ検波以外,と言うことだとフォスター・シーリーだと思います。しかも,フォスター・シーリーだと特殊はIFTは不要で,段間用のIFTを流用できるんです。また,昔からフォスター・シーリーの方が直線性がよく,音がよいとされています。確か,80年代のチューナーブームの時もどこかが出したような.....。

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さっそく設計してみたいと思います。

でも,レシオ検波もそうですが,フォスター・シーリー検波の詳しい設計法を書いた資料が見つかりません。原理を書いた本は一杯あるのですけど,具体的に各定数をどうやって決めるか,書いた本がないのです。

ということでやはり困ったときのSpice頼みで回路シミュレータで設計します。

まず,FM変調波は通常の電圧源voltageから変調を選択できますので楽です。

FM変調設定.jpg SSFMを選択します。

Foster Seeley(10S10.7).jpg回路はこうです。

IFTは3個の巻線が必要です。しかも,トランスとして使うので,いずれも結合してないといけません。

これについては,LTspiceの一番右上にあるdirectiveの設定が必要です。

Spice Directive.jpg Spice Directiveボタンはここです。

これをクリックして,

  K L1 L2 L3 結合係数

と記述すると3つのコイルが結合します。回路中に複数のトランスがある場合はK1,K2....と記述すればOKです。

なお,2次側の51pFはIFに同調しないといけないのですが,L2,L3はもちろん,この結合係数によっても同調周波数が変わるので,▼のSカーブを調べて,ちゃんと中心に10.7MHzが来るように決定する必要があります。

また,シリーズにつながっている2個のコイルは本当は1個で,センタータップが出ているだけなので,向きを合わせないと電圧を打ち消しちゃいますので,コイルの記号を右クリックして,show phase dotをチェックして向きを揃えておきます。

なお,L4は単なる独立のインダクタでいいので,結合の設定は必要ありません。レシオ検波だとこれまで結合しないといけなくて,このせいでIFTが特殊な巻線となってしまいます。

IFTはFCZ研究所の10.7MHzのものを使います。

ただ,問題はこのコイル,同調側の真ん中のピンがセンタータップではありません。

これはTr用のIFTには共通のことで,AM用も普通,センターではなく,ずれたところからタップが出ています。

これは接続するTrが低インピーダンスなので,それにあわせて整合を取っているからですが,FM検波に使うには不都合です。

どうしようか迷ったのですが,とりあえず,Spiceでテストしてみてどうするか決めたいと思います。

FCZのIFTの同調コイルの巻数は4Tと6Tなので,インダクタンスとしてはこの2乗に比例しますので,16:36になるようにインダクタンスを決めます。っていうか,4:9だろ。

結果は.....。

Foster Seeley output(10kHz).jpg10kHzが出てくるのがわかります。

10kHzで変調していますので,10kHzが出てこないといけませんが,ちゃんと出てきます。輝線? が太いのは10.7MHzのIFが漏れているからですが,これは簡単なフィルタで消えますので問題ありません。

また,さっきの独立インダクタは100μHくらいないとダメな感じです。意外におおきなのが必要なんですね。

ただ,実を言うと,教科書にはフォスター・シーリー検波だとここがコイルになっていますが,普通の抵抗でもよく,メーカ製のセットだと抵抗で代用している場合があります。LTspiceでシミュレーションしたところ,50~100kΩでよさそうです。

さて,さっきの2次側非平衡の問題ですが,

S curve.jpg Sカーブです。

IFをスイープして2次側の電圧を見てみますとこんな感じでした。いわゆる,Sカーブが出ていますね。この曲線を利用して,IFからずれた周波数に比例したAM波に変換します。

そんなにひずんでいる感じではないし,しょせん,小さなスピーカをつないで鳴らすだけだし,これで十分ではないかと思います。こんな小さなラジオだとスロープ検波でもいいくらいだし,これでいいんじゃない,と思います。

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ついでに,レシオ検波もシミュレーションしてみました。

ratio FM discriminator.jpeg こんな感じです。

レシオ検波は2次側のコイルは3つ(実物は2個で,1個は真ん中にタップがあるんですけどね)必要で,いずれも結合が必要です。

2つあるDiはフォスター・シーリーと違って逆向きで,また,Diの出力に大容量のケミコンがつながっているのがレシオ検波の特徴です。このコンデンサのおかげでリミッタ作用があります。

出力波形はフォスター・シーリーも同様で,起動後しばらくは▲のようにマイナス側に大きく振れます。ちゃんと出力に10kHzが出てくることがわかりますね。

残念ながら,FM用のレシオ検波用IFTを入手することは古いFMラジオを解体でもしない限り,難しいかと思います。

ただ,問題になる3次巻線はやはりFMなので,ほんの数Tの巻数でよいはずだし,FCZのIFTを改造して作ることもできるのではないかと考えています。

つづきはこちらへ。


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