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水銀入り整流管用遅延スイッチ回路の設計 [ラジオ]

2016年10月22日の日記

先日,サイラトロンの実験をしました。

サイラトロンは水銀入りの整流管で,動作時は内部がボォーッと青く光ってとても美しく,思わず見とれてしまいました。

整流管というのはもちろん,2極管なのですが,検波だけではなく,交流を直流にするという需要が初期のエレクトロニクスの時代からあり,早くから開発が進められましたが,ラジオやアンプなどに使用できるような大容量の整流器は当時の技術では難しく,バイブレータや電解液を使用したものが使用されました。バイブレータは騒音が大きいし,故障も多いし,電解液式のものは取り扱いが面倒ですね。

といって米国は国が広く,電気が来ていないところも多かったし,そもそも家で充電できない,と言うところも多かったのです。逆に自動車は先に普及したので "ウチではよ~,電気が来とりゃあせんけど,バッテリーならあるでよ~" という家も多かったのですが,情報収集するため,また数少ない娯楽として電池式ラジオが普及します。 自動車を持っていなくてもバッテリーは手に入ったので,日曜に馬車で放電したバッテリーを町まで持っていって充電屋で充電してもらって家に持って帰ってラジオを聞く,なんて生活スタイルでした。

蛇足ですけど,欧州では鉄道模型と言えば交流式のメルクリンなのに,米国ではDC12Vというのも同じ理由からです。いまじゃ,メルクリンもDC式ですけどね......。やっぱ,アメリカは強かった......。 

そんな中で,やはり電池式は不自由なのでAC電源式(エリミネーター)ラジオを開発するべく,真空管技術を使用した冷陰極放電整流管や水銀入り整流管が開発されます。並行して高真空の整流管も開発されていきます。亜酸化銅やセレンなどの半導体の利用は戦前からありますが,本格的な半導体式整流器は戦後のことになります。ちなみに英語で "eliminate" は "取り除く", と言う意味ですが,電池を取り除いたのでエリミネーターというわけです。 

もちろん,後に真空技術が向上し,純粋に電子のみで整流を行う,高真空整流管が登場すると,使いやすいし効率もよいのでほかの整流器は姿を消していきます。

ただ,数Aとか,数10Aとか,もっと大きな容量のものになると逆に水銀入りのものは効率がよく,また,整流時の内部の電圧降下が高真空タイプのものより小さく,レギュレーションがよいことから比較的大容量のものは最後まで使用されました。サイラトロンもそのひとつです。最後の用途は溶接機の電源のようです。おまけにサイラトロンはいわば4極整流管で,グリッド位相制御ができるので,今で言えばサイリスタやトライアックのように電圧制御ができたので都合がよかったようです。

冷陰極放電管も姿を消していきますが,シリコン整流器が実用化されるまでは高圧・大容量のものが残り,イグナイトロンやエキサイトロンは機関車で利用されました。ED70やED71がそうですね。 

オーディオ用だと83とか,866(日本では2H66の方がよく知られています)が有名ですね。83は音がよいとか言うことで今も502A3300Bなどのアンプの整流に使う人も多いと思います。iruchanもいずれ,50シングルアンプを作って音を聴いてみたいと思っていますが,その整流に83を使おうと思っています。

ただ,これらの水銀入り整流管にはやっかいな問題があります。

使用時には 予熱 が必要 なんです。

内部の水銀は常温では液化してしまうため,真空管の電極や底部に溜まった状態となります。この状態で通電すると電流が流れず,整流しないのはもちろん,真空管を傷める原因になります。場合によっては液体の水銀が陰極と陽極をショートすることもあるかもしれません。まあ,見ていて粒になっているくらい多くの水銀が入っているわけじゃないのでこれはあまり出ない事象だと思いますが。あくまでも水銀が蒸発してイオン化するまで待つ必要があるのです。

そこで,前回のサイラトロンではヒータ用と高圧用でスイッチをわけ,最初にヒータ用のスイッチを投入して数分~15分程度待ってから高圧を投入しています。

83とかだと2分~3分くらいでいいのですが,それでもスイッチを2つ設けて,時間差で投入しなければいけません。

でも,これは面倒ですよね~~。

これを自動化するのはタイマーリレーを使えばいいんですが,どうにもタイマーリレーは高いし,サイズも大きいので困っちゃいます。シャシーの上に載せるしかないことも多いのですが,トランスや真空管と一緒に並んでいるのはどうにも違和感を覚えます。

ということでいつかは半導体式の遅延スイッチを作ろう,と昔から思ってましたし,また,いつも大変お世話になっている河童さんからKR-1という初期の水銀入整流管を使いたいので,遅延スイッチ回路を考えてもらえませんか,とご要望がありましたので設計しました。

KR-1というのは小型の水銀入り整流管です。1933年,Kentucky Radio社が開発しました。Ken Radのブランドでおなじみです。エリミネーターのラジオに用いられた初期の整流管です。AC電源式ラジオには整流管が必要でしたが,なかなか整流管は難しく,このKR-11-Vや有名な80など,実用になるものができるのは1930年代のことです。KR-1は,RCAが3年後にほとんど同規格の高真空整流管の1-Vを開発したので御用済みになりました。なんか,あと出しじゃんけん,と言う気もするのですけどね......。さすがに真空管の巨人RCAが発売するとどこもほかは売れなくなってしまいます。

KR-1はナス管なのも魅力で,とてもかわいいスタイルをしています。RCAの282なんかも同じナス管の整流管ですね。 といってよく間違えられるのですが,8283は水銀入りですが,8081は水銀入りじゃありません。ついでに83Vというのもあって,これも水銀入りじゃありません。80は最大100mAと大きく,ラジオ用の決定版と言っていい整流管です。これが開発されたことでラジオ用の整流管は勝負あった,という感じです。戦後は5Y3GTとして,真空管の最後の時代まで使われました。iruchanも結構お気に入りで,最新の6G-A4シングルアンプでも使用しています。

ということで,小型の水銀入り整流管KR-1用の遅延スイッチ回路を設計しました。

水銀入整流管用遅延回路(リレー式).jpgリレー式だとこんな感じです。 

リレーを使うと▲のような回路でしょうか。ちょうど,Tr式パワーアンプのミューティング回路そのものです。

でも,リレーを使うんだったらタイマリレーと変わらないわけですし,サイズも大きいので,オール半導体式にしたいと思いました。リレーだと整流管の前に挿入することもできるんですけどね。半導体だと整流管のあとになっちゃいます。 

しかし,これが意外に面倒。最初,制御Trを▲のリレーの代わりに挿入し,そのベースをC-Rの時定数でコントロールすりゃいいや,と思ったのですが,結構,難航してしまいました。

まず,制御Trに普通はNPNを使うのですが,これが NG。なんでかというと,出力をエミッタからとりますが,エミッタ電位は整流管がonした段階で決まるので,▼のように整流管のあとに挿入しちゃうとエミッタ電位がまず決まらないので制御できないんですね。 

iruchanは鉄道模型用のPWM式コントローラなどではいつもNPNを使っているんですけどね......。 

結局,PNPトランジスタを使って制御しました。これを思いつくまで結構時間がかかっちゃいました。一応,NPNを使う回路も考えましたが,すごく回路が複雑になってしまうので,やはりPNPを使う方がよいです。

水銀入整流管用遅延回路(半導体式).jpg設計した遅延回路 

そんならMOS-FETを使えばいいじゃん,と言う話もあるでしょうけど,これはこれでやっかいで,電圧で制御するのでこういう高圧回路に使用すると電流が流れなくても動作してしまうので設計が面倒です。

まずは簡単にヒータ電源(AC6.3V)を整流して制御用の電圧とします。ヒータ電源はメインのスイッチを入れると同時に入ります。

なお,電源はヒータから取っていますが,整流管のヒータ回路は接地しませんので使えません。整流管以外のヒータから取ってください。また,805Y3GTなどの直熱整流管はフィラメントがカソードになって高圧になっていますから,絶対接続しないでください。 5AR4などの傍熱整流管の場合でもH-K耐圧の観点から,普通,ヒータは接地しませんのでご注意ください。

AC6.3Vを整流し,C-Rの時定数に放り込むと,コンデンサの電圧はゆっくり上昇していきます。

それをQ2のベースに入れてやると約0.5VでこのTrがonします。Q2はある程度,電流が取れないといけないのでダーリントン接続にしてあります。何も▲の図のようにインバーテッドダーリントン回路にする必要はないのですが,なぜかそうしちゃいました......(^^;)。

そうするとQ3のエミッタに電流が流れ,1SS133の順方向電圧が0.6V×2で約1.2Vくらいの電圧になりますので,制御Tr Q1 の2SA1924がonし,遅延スイッチが投入されます。 

実際には考案した回路をSpiceでシミュレーションして定数を決めました。

KR-1用遅延回路シミュレーション結果.jpg LTSpiceのシミュレーション結果

約160sec.でTrがonし,その後,約160sec.かかって徐々に電圧が上がってくることがわかります。

そう,ソフトスタートになるんです!!

実はちょっと予想外だったのですが,これはよいことですね。出力管から見るとゆっくり高圧が加わりますので,とても出力管に優しいです。タイマーリレーや▲のリレー式の遅延回路じゃこうはいきません。いきなり高圧が出力管にかかります。

また,フィルタコンデンサも最初からいきなり高圧が加わるわけじゃないので,ゆっくり充電されますので,大容量のものをつないでおいてもOKです。普通,電源のフィルタコンデンサはコンデンサインプット整流の場合,ラッシュカレントが流れるので整流管ごとに制限値があります。大体,80などの直熱タイプで10~20μF,5AR4などの傍熱タイプでも最大47μFくらいに抑えておかないといけません。1-Vなどの古い整流管の場合は10μFくらいにしておきたいところですが,この回路を使うと100μFくらい入れても大丈夫だと思います。

青い線は制御TrのQ1 2SA1924の損失を示しています。最大で11Wにもなりますが,これは瞬時値で,波形は半波整流の波形です。B級アンプの平均コレクタ電流同様,平均電流はIp/πで表されますから,平均のコレクタ損失は最大で3Wほどです。2分ほどは少し熱くなります。定常状態だとこのTrはほとんど電圧降下しませんので,損失はわずかです。なお,I(R1)がずっと上昇を続けていますが,10mAで落ち着きます。

時定数はSpiceでのシミュレーション上は1.6MΩ×470μFでしたが,実際には10MΩ×470μFで約3分でした。実際とは少し違いますね。 

その時定数回路に挿入しているダイオードは1N4007を使っています。わずか,6.3Vを整流するだけに逆耐圧1,000Vの1N4007を使う必要はないんじゃない,と思われるかもしれませんが,もし,Q2,Q3が破壊されるとヒータ回路に高圧がかかっちゃいますのでその用心です。これがあると安心です。

もちろん,Q2が壊れなければ問題なく,1SS133でも十分なんですが,それじゃどこかの発電所みたいに地下に非常用発電機を設置しているようなものなので,高圧用Diを使用しました。

iruchanはどっかの電力会社と違ってこのようにあらゆる事象を考慮に入れて細心の注意を払って設計していますと威張りたいところですが......。 

なお,Q2,Q3にも安全のためじゃなく,マジで高圧Trが必要です。これらには高圧がかかります。制御Trと同じ2SA1924が使ってあるのもそのせいです。一応,特性を下記に記しておきます。

   VCEO(V) IC(mA) PC(W) 

  2SA1924  -400  500  10

  2SC3425    400  800  10

実は,iruchanは最初,うっかりQ2に2SC1815を使っちゃいました。テストしたら思いっきりショートしてエミッタ抵抗の160Ωが火を噴いてメルトダウンしちゃいました。 ダーリントン接続してあるから,Q2には高圧はかからない,と思っちゃったんですね.....。

考えてみりゃ,Q3のエミッタ電圧-0.6VがQ2のコレクタ電圧なので,ほぼ300Vがもろにかかります。2SC1815はVCEO=50Vですからそりゃ即,炉心溶融ですわな......。 おぉ,怖っ!!

水銀入り整流管用遅延回路2.jpg 

できあがった基板です。 写真はテスト用のものでTrとDiが完成版と異なります。完成版の写真は撮り忘れました。ごめんなさい。

基板は27×33mmと小さいです。これならシャシーの中に十分収まりますね! 

使い方はこんな感じです。

水銀入整流管用遅延回路接続.jpg 実際の基板の接続

実際に300Vをかけてテストしたあと,河童さんに基板を送って使用していただいています。無事に動作しているようです。 

後で考えてみると,高圧の出力に470kΩと直列にLEDをつけておけば,高圧onが表示できたな,と思いました。

なお,本回路はあまり大容量の電流は流せません。せいぜい50mAくらいです。というのも制御Trが飽和領域から非飽和領域に入ってしまうため,出力電圧が低下するためです。次に50シングルアンプを作るときはこの点を改良して本格的な83用遅延回路を作りたいと思っています。 それに,50のアンプだと遅延回路も耐圧600Vくらいで設計しておかないといけませんしね。

では,また。 


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