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Technics SP-10Dの整備 [オーディオ]

2012年8月14日の日記

お盆でお休みをいただいています。夏は工作に向かない季節なので,工作屋は休業です。

と言って,何にもしてないのも何なので今回はテクニクスのSP-10Dを整備します。

松下電器が1969年に世界で初めてダイレクトドライブのプレーヤを出します。SP-10ですね。発売時期については,1970年と書いてあるものもあり,海外と国内で発売年が違っていたのか,と思いましたが,発表が69年で,発売が70年だそうです。親切な方からご教示いただきました。モータには20極60スロットというブラシレスDCモータを開発し,半導体でドライブしました。それまではアイドラーを使ったり,ベルトを使って動力を伝達していました。モータはシンクロナスモータで,交流を電源としています。今でも人気がある,Garrardの301などはアイドラードライブですね。アイドラーはゴムの円板でモータの駆動力を伝達する方式のため,モータの振動がターンテーブルに加わりやすく,ゴロとかランブルと呼ばれる低周波のノイズを生じます。それを避けるためベルトドライブにしたものが多かったのですが,どうしてもベルトは劣化しやすいですし,何よりどちらもシンクロナスモータを回転させているだけで,何ら制御などと言うことはしていないので回転ムラが問題となっていました。

これらの問題を低回転のブラシレスモータを開発し,半導体による制御回路を開発することにより一気に解決したのがこのSP-10でした。

ブラシレスDCモータというのは交流のシンクロナスモータと同じものです。ACモータの場合,電源が3相交流だと自然に回転磁界ができますが,家庭用だと単相交流しか得られないので,進相コンデンサを用いて回転磁界を作ります。コンデンサ始動式とも呼ばれるものですね。最近,古い扇風機が発火すると言う事故が起こっていますが,この進相コンデンサのリークによる発火が主体です。リークにより直流抵抗分が出てきて,その抵抗分により発熱します。ちなみにGarrard301はコンデンサ始動式ではなく,くま取りコイルを用いたくま取りモータです。実はものすごく安物のモータです。

ブラシレスDCモータのロータは永久磁石で,ステータのコイルに3相交流を流して回転磁界を作ってロータを回転させる仕組みです。本来ならDCモータはロータに電流を流さないといけないので,整流子とブラシが必要ですが,ステータコイルを制御することによりそれを不要としました。しかしながら,ロータの回転位置を検出するためのセンサと,制御回路が必要となります。しかし,これにより長期にわたって安定した回転をさせることができます。また,ターンテーブルも質量2.8kg,慣性質量330kg・cm2のものを使用し,1個1個,ダイナミックバランスの調整をしてあります。

当初,高級ターンテーブルとして30万円を超す値段にする予定だったようですが,8万円ちょっとという戦略的価格にし,普及を図ることにしたのも成功の一因でしょう。

ただ,初代のSP-10は回転させるのがやっと,と言う印象を受けます。何せ回路が簡単で,米Vinyl Engineのサイトでサービスマニュアルが無料でダウンロードできますが,簡単な回路になっています。センサもホール素子がまだ実用化していない時期の製品なので,周波数発振器(FG)を使っています。FGでロータの回転位置を検出して出力のTrをONし,ステータのコイルに電流を流す,と言う仕組みです。もっとも,1960年代末にこのような回路を作ってモータを回転させることができただけでもすごいと言えると思います。

5年後,大幅に制御回路を変更し,MkⅡが登場します。クォーツロック制御を採用し,電源部は別筐体となっています。英BBCは長年使用してたGarrardの401ターンテーブルに代えてSP-10mkⅡを採用することとし,その名声も相まってベストセラーとなりました。

mkⅡは制御回路が大幅に改良されたものの,モータはコストダウンが図られ,20極15スロットとなっています。また,巻き方もSP-10は重ね巻きと呼ばれる手の込んだ巻き方に対し,こちらは並巻きになっています。並巻きはトルクムラが出るので,低価格品です。ちなみに電車のモータは重ね巻きにしています。電車の場合,トルクムラは禁物で空転の原因になるからです。ターンテーブルの場合は音に影響するでしょう。そこで,のちにスロットレスと言うモータも各社から登場しますが,何のことはない,鉄芯なしにして空芯コイルを基板に貼りつけたモータです。鉄芯がないため,トルクムラが少なくなりましたが,逆にトルクが犠牲となり,低トルクモータとなってしまいました。松下さんはSL-1200シリーズなど,最後までスロットありモータだったような気がしますが,この低トルクの点を問題にしたのではないでしょうか。と言うことから,金田式ターンテーブル制御アンプなんかを作る人は初代のモータを探しています。その後,mkⅡAが1983年から発売され,最終的にMkⅢが1987年まで製造されています。

SP-10シリーズの駆動アンプはシングル出力で,電流は吐き出しか,吸い込みか,どちらかしかできません。初代SP-10の場合は制御Trはコレクタに駆動コイルが接続されていて,電流は吸い込みしかできません。したがって,駆動電流の負のサイクルのほんの一部の時間だけ,電流が流れてモータを駆動しています。これなら金田さんじゃなくてもプッシュプルのアンプを使って,きれいな正弦波でモータを駆動したくなりますね。私も件の金田式ターンテーブル制御アンプを作ろうと思い,初代のSP-10を探していました。

と言って,今ごろ探すと大変です。金田さんは補修用パーツとして安く入手されていますが,今はオークションの世話になるしか方法はありません。

と言うことで,今から10年ほど前,米eBayで150ドルでSP-10Dというのを入手しました。当時でもウソみたいな値段で,無事に届くかどうか不安だったのを覚えています。モータは初代SP-10と同じで,20極60スロットのブラシレスDCモータを使用しています。外観は全く同じです。

SP-10D.jpg Techinics SP-10D

しかし,SP-10は現在のオークションの価格は10万円以上と言ったところですね。eBayでも1,500ドルとかするのも珍しくありません。海外でも人気があるのですね。モータだけほしい,と言うのにこんなお金を払う気はしません。

でも,SP-10Dって何でしょう? 上記,Vinyl Engineやほかのサービスマニュアルを扱っている店を探してもSP-10Dは出てきません。制御Trの型番もSP-10が2SC697なのに,SP-10Dは2SC840を使っています。電源もSP-10は1個ですが,これは2個になっています。また,電圧もSP-10は15Vなのに,SP-10Dは40Vとなっています。電源電圧が上がっているのは何でだかわかりません。

2SC840.jpg 制御Trです。2SC840になっています

どうも詳しいことがわかりませんが,初代SP-10の制御回路が単純だったので,改良を加えたものがSP-10Dのようです。どこがどう改良されているのか,わかりません。

その他,外観上の違いはないと書きましたが,ターンテーブルの固定に4個ネジを使っているのが違いますが,ゴムシートを載せてしまえば全くわかりません。 

SP-10D-1.jpg ターンテーブル固定ネジがあります

モータは同じものですし,ターンテーブル制御アンプを作らずにオリジナルのもののまま,使用するのでしたら,SP-10Dの方がよさそうです。

と言うことでターンテーブル制御アンプを作ろうと思いますが,せっかくこのように貴重なものを入手できたので,とりあえず,オリジナルの状態で使用してみたいと思います。

motor.jpg モータです。重ね巻きですね。

この写真じゃわかりにくいですが,コア自体,斜めに積層鋼板を積み重ねていて,斜めスロットとなっています。英語からスキュー(skew)巻きなどとも言います。こうするとトルクムラを減らすことができます。Nゲージのモータでもスキュー巻きにして起動時にスムーズに起動するよう工夫したモータがありますね。一番いいのは巻線だけでコアのない,コアレスモータですが,値段が高いせいか,Nゲージではまだ採用されていないようです。

軸受はオイル潤滑になっていますが,私のは軸受内部に油が残っていて,油切れになって軸や軸受に傷がついていたりすることはありませんでした。

MPL-10B.jpg 端子電圧が40Vになっています。

届いたとき,テストしてみましたが,無事に回転しました。今回,10年ぶりに取り出してみましたが,やはり無事に回転します。

しかし,何せ製造から40年くらい経っていますし,電解コンも容量抜けでしょうから,コンデンサの取り替えをしてやろうと思います。

さて,まずは電源回路から。やはりここがまずは問題となると思います。

電源回路.jpg 電源回路です。

手前のスパークキラーのところにAC100Vが来ていますので,十分気をつけてください。なお,このスパークキラーが故障すると電源ボタンを押したらブッとスピーカからノイズが出ます。Garrardの301などはよくこのスパークキラーが故障します。

電源回路1.jpg 電解コンは液漏れしてます。

平滑用のフィルタコンデンサは63V,470μFです。もう1桁,容量は大きいものが必要だと思いますが,ケースの天井にぶつかるのであまり大きなものにはできません。下部には液漏れのあとがあり,茶色いしみが付いています。

先日,インバータが故障したのでメーカの人を呼んだら,「ケミコンは寿命は20年と考えていますが,できれば10年で交換して下さい」と言われました。こんなものなのでしょうね。

予想通り,外して容量を計ってみると9.7μFしかありません。Trによる安定化電源がついていると言っても,出力電圧は台形波みたいになっていたと思います。

ニチコンのMUSEコンデンサに取り換えました。50V,1000μFにしましたが,これ以上の容量のものはケースにつかえます。

また,ブリッジDiはサンケンの1S18501S1850Rを使用しています。それぞれ,2個のダイオードを内蔵し,カソードコモンとアノードコモンになっています。1個ずつ組み合わせて2個でブリッジになる,と言うわけです。

ダイオードは劣化していませんから,このままでもよかったのですが,できればファーストリカバリDiにしてやりたいと思います。普通の整流用Diはスパイク状のスイッチングノイズを発生させ,安定化電源を素通りしますから,アンプの場合は有害であることがわかっています。ツィータに耳をつけてみると,ジーとか,チィーとか言う音がすることがありますが,原因はこれです。半導体のアンプの音が悪い,と言われるのには,ひとつはこれが原因です。

整流用Diにパラに小容量のコンデンサをハンダ付けすると取れますが,やはりファーストリカバリかショットキーを使うのがベストです。

と言うことでファーストリカバリDiに取り換えます。ところが,1S1850のように2個1組のダイオードはセンタータップ用として今も売られていますが,ブリッジの反対側(アノードコモン)のものはほぼ絶滅しています。以前,AMステレオのチューナを作ったときに使いましたが,あらためて秋葉原で探してみると全然ありません。部品屋の親父さんに聞いてみると全部製造中止になり,受注生産とのこと。どうも需要がないようです。といって,ブリッジ整流にしない,と言うことはトランスの巻線が倍必要なのですが,トランスの方が安いのでしょうか。

もし,日本インターのFCF10A20FRF10A20が手に入れば,そのまま置き換えができます。前者は今も秋葉原で入手可能ですが,後者が入手困難になっています。

しかたないので,ディスクリートの10DRA10を使いました。100V,1AのファーストリカバリDiで,逆回復時間Trrは60ns.のものです。モータ駆動用なので,直接,信号回路に使っているわけじゃないのですが,やっぱ,気分的にもファーストリカバリを使うと気分がいいです。

電源基板2.jpg コンデンサとDiを交換しました

制御基板も電解コンデンサは全部取り換えました。特にオーディオ用じゃなくてもよいのですが,ニチコンのMUSEを使いました。ただ,耐圧が50Vのものが必要で,一部,通常品で交換しています。

マイラコンはポリプロピレンのコンデンサに一部取り換えましたが,マイラコンは外したのを容量を計ってみるとほとんど表記通りだったので,半分くらいはもとのままにしてしまいました。

制御基板.jpg オリジナルの状態

驚いたことに半固定VRが6個ついています。初代のSP-10は4個です。基板上にはシルク印刷で78の文字もありますので,基板は78回転にも対応しているようです。写真の左側にたくさん並んだ電線に2本,遊んでいるものがありましたが,これに何らかの配線をすれば78回転もできるように思います。

capacitors.jpg 取り外した部品

SP-10D-2.jpg 無事に回転しました。

さて,ハンダ付けのあとや電解コンの極性を慎重に検査し,再度,電源を投入します。無事に回転しました。ストロボも安定して停止しています。このまま1時間ほど回転させましたが,発煙したり,制御Trがあっちっちになったりはしませんでしたので,部品交換は成功したと思います。今度,キャビネットをつけてプレーヤとして使用してみることにしましょう。


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m生

1S1850 & 1S1850Rを10DRA10で代用するのに、
なぜ8個必要なのですか?

ブリッジダイオードなら、4個で構成できるのでは?
と考えます。

この疑問で質問者のレベルが分かると思います。
ぜひお教え下さい。

電源回路は、ダイオードで半分に切ってコンデンサーで平滑して、
という図式が頭に浮かぶ程度です。

テクニクス製品では、1S1850 & 1S1850Rのペアを
電源回路に使う製品が大変多く、代用方法を模索しています。

SP-10の回路を実例にして、お教え下さい。
by m生 (2015-11-28 08:15) 

iruchan

もとのオリジナルの電源基板の写真をご覧いただいたらおわかりになると思いますが,単純に1S1850と1S1850Rが2組ついているので,8個必要,と言うことです。1組のものを交換するなら4個でOKです。
by iruchan (2015-11-28 08:36) 

m生

ありがとうございます。SP-10の現物を見ました。
http://sp-10.jp/wp-content/uploads/2015/01/DSC_7739.jpg

基板上には、1S1850 & 1S1850Rがあります。1組。
それぞれのパッケージに、ダイオードの絵があり、
これを見れば、ダイオード4個に置き換える事は出来そうです。

SP-10Dの場合は、1S1850 & 1S1850Rが2組あるのですね。

vinyl engineのSP-10マニュアルの回路図も、ダイオード4本が配置されていて、
通常のブリッジ回路です。1S1850、1S1850Rそれぞれのパッケージが
4本のブリッジを構成する内の二本ずつを含んでいる、という説明もあります。

ということで、通常の国内仕様SP-10の1S1850 & 1S1850Rを10DRA10で代用するのには
4個必要、ということでしょう。

SP-10Dの電源回路では1S1850 & 1S1850Rをどのように使っているのでしょうか?
by m生 (2015-11-28 18:27) 

iruchan

残念ながらSP-10Dの回路は入手していないので詳しいことがわかりません。おそらく,電源が2系統あって,そのため,電源のブリッジが2組あるのだと思います。
by iruchan (2015-11-28 21:34) 

大ねこ元気

SP-10は発表が1969年、発売が1970年です。
1970年のSP-10発売の1か月ほど前にソニーのDDターンテーブルTTS-4000が発売されています。
松下電器が発表したので発売はソニーが先になるようにあわてて発売したらしい。
by 大ねこ元気 (2017-08-31 05:57) 

iruchan

大ねこ元気さん,どうもご教示ありがとうございました。
by iruchan (2017-08-31 07:40) 

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